白い息
それは自然と吐き出され
白い雪
ふわりふわりと舞い降りる
今日は何の日?
建ち並んだビルの目映い光が、木の枝と枝の間の陰から覗く。
あの光の元には見慣れたネオンの工芸がある。それは夜と思わせないほどに明るく眩しい。
それに比べ、今いるここは、一定間隔に置かれた街灯が辺りを明るすぎず暗すぎずに照らしだす。
その街灯は、ところどころに置かれたベンチにポツリポツリとある、寄り添って座る人影を同時に照しだしていた。
俺は、ああいう風に寄り添って過ごすのも良いと思うーーーでも、隣にいるこいつは、嫌がって顔を真っ赤するだろうと、確信してる。
それにしても、やけに寒い。
「降ってくんねぇかなぁ。もし積もったら雪だるまだろ、かまくらだろ、リュータたち誘って雪合戦も良いぜ。」
もしかしたら雪が降るかもしれない。と言うハヤトの言葉に、サイバーがそう言った。
この首都部にそんなに雪が積もるとは思えないーーと、思いつつも飲み込んで置く。
言えば、サイバーが落ち込むだろうことが目に見える、まぁすぐ元気になるだろうけど。
サイバーは、暗がりでも明るく映える髪を歩く度にふわふわと揺らし、手で包み込めるくらいの小さなアルミ缶を持っていた。
先程近くにあった自動販売機で買ったもので、まだ充分にあたたかさが残っている。
一方、ハヤトは中程の紙袋を肘にかけ、手に息を吹きかけ暖めていた。
「なぁ、そう思わねぇ?」
「……別に。」
「ちぇーつまんねぇの。遊べるのも良いけどよ、雪が降ったら『ホワイト』だぜ、ホワイト。わかるホワイト?」
「寒いだけだって。」
「……そうだけどよー…。」
寒さの中に沈黙が混じる。
サイバーは、軽く振ってくださいと表記されているのに従ってか、缶を何度も上下に勢いよく振り始めた。
バシャバシャと音が鈍く響く。
そっとサイバーの顔を覗いてみると、少し尖らした口が見えた。
マフラーの下で短く笑ってハヤトは、サイバーの手から缶を取った。
冷えた手に、缶の暖かさがほんのりと伝わってくる。
「振りすぎだって。」
「え、このくらい振るもんじゃねぇの……ってか、それ本気で飲むのか?」
「うん。」
ハヤトがタブを開けると、目に白く映る蒸気と共に甘ったるい匂いがただよう。
小さな缶には、大きく『おしるこ』と書かれている。
『おしるこ』と明記されたそれを見たときに、味を思いおこしていたサイバーなだけに、実際の甘い匂いはどうも鼻についた。
「サイバーも飲む?」
ハヤトの申し出に首を横に振る。
飲むのは勘弁。
俺は餅を入れて食べたい。
サイバーがそう言うと、ハヤトはくすくす笑った。
そして変わらず湯気のあがり続けるそれを、ゆっくりと飲み始めた。
サイバーは天を仰ぐ。
サイバーの吐き出した息は白く、黒い空の中に溶けていく。
どこまでも上に広がる黒い空には、白く光る、まん丸と言うには少々欠けた月がある。
月の側には、月の光と空の色を吸い込んだ大きな雲。
もうしばらくすれば、雲が月を隠してしまいそうだ。
風が吹く。
ひんやりとしたそれに促されたサイバーは、小さくくしゃみを1つした。
「……ざむぃー…ぜ。」
身震いして、サイバーは少しでも暖まろうとしているのか、体を抱えるようにして腕をこすった。
そうしていると、ハヤトからおしるこの缶を手渡される。
特に何もハヤトは言わない。どうやらまた持ってろということらしい。
無言のまま、それを受け取ると、再びおしるこ独特の甘い匂いが漂った。
同時に缶の温もりが手に伝わった気がする。
一口飲みたい気分に変わったサイバーは、許可を得ようとハヤトの方へ振り向いた。
飲んでも良いかーーと聞きかけて、ハヤトの顔が意外と近くにあったのに驚いた。
目が合う。
言おうとしていた言葉が急に喉でつっかえていた。
なにも言わずに、ハヤトはサイバーに唇を重ねる。
目を見開いたまま、サイバーは呆然とした。
特に拒むわけでも受け入れるわけでもなく、固まったまま。
やっとハヤトが離れたのは、我にやっと返ったサイバーが押し退けた時。
けれど事の次第を、ろくに回らない頭をかかえていたサイバーは、反射的に押し退けただけで理解出来ていなかった。
唯一理解出来ていることは、手に持っている、このおしること同じ独特の甘さ。
「甘いでしょう?」
笑みを浮かべたハヤトはただそう述べた。
何故甘さが口に広がっているのかは、まだしっかり理解できていないよう。
やっと理解したときには、この寒さとは似つかわないほどに顔を真っ赤にしていた。
サイバーは赤くなると同時にハヤトに思いつく限りの罵声を浴びせた。
ただハヤトは笑ってそれを聞いているだけで、あまり罵倒の意味はなさそうだった。
「もうすぐ着くから、噴水の所を右に曲がって道路に出たら目の前だしね。」
「誤魔化しやがって………ふっ、ーーーぐしゅん!!」
「きっと部屋は暖かいんじゃないかな?」
サイバーは、くしゃみで出かけた鼻水をすすって、腹いせに、手に持っていたおしるこを飲み干した。
甘すぎるそれを一気に飲んだら吐きそうになる。
微妙にむせて、目に涙がにじんだ。
ふとっ…サイバーの視界に白い小さなものが通り過ぎた。
そちらを見てみると、何もないので見間違いかと――――――また白いものが通り過ぎていく。
それも今後は一つでなく、白い小さな固まりが何個も何個も通り過ぎていく。
何か確信しかけたサイバーは、ハヤトの方に振り向いた。
上空を見上げ、眺めているハヤトが呟くようにいった。
「雪だ。」
「雪……だよな。」
反復してサイバーも、その存在を確認する。
雪…雪だぜ、これって雪だよな。
何回もサイバーは繰り返して、最後には笑い声を上げていた。
「まさか本当に振るとはなぁ……。」
「あはははっ!!スゲーー!スゲーー!!」
サイバーは石の埋められた道を走り出して、数十メートルほどからまた走ってハヤトの前に立つ。
そしてまた走り出そうとする。それをハヤトは腕をつかんで制止させた。
二人とも自然と顔を合わせる。
すでに笑顔全開なサイバーを見てハヤトは思わず頬を持ち上げ、笑い声を上げた。
何よりも喜んで、何よりもまず言いたいことは。
「メリークリスマス。」
「ホワイトクリスマス!だろ!!」
そんな夜の日。
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2005.12.25
目指せクリスマスの日にお話!!!が無事出来ました。良かった……。
ハヤト達がいるのは公園で、これからクリスマスパーティーに行く途中……。って受け取って貰えると幸いです。
途中に、会場がDTO宅だとか、黒いハヤトだとか、それらしいのを入れるとつもりだったんですが………、ごめん気力とまとめ具合選びました。
こんな二人が好きですと、ぼそりんと言ってみるであります。