そう、あれはいつだったかな



小さい時に憧れたものたちは
世界が広がる度に嘘だと知って

全てがまやかしでしか無かったと愕然としたのは…






story1..........





遠くの方で鳥が鳴いていた。
小さな鳴き声が、やさしく耳に響きわたる。

一方、すぐ頭の上では、ジリリリリリと、遠慮の感じられない音がしていた。
うとおしく頭の上の方を覗いてみれば、忙しそうに動く時計が視野にボンヤリと入った。
「起きろ」と、命令しながら全身カタカタ揺らして自己主張する時計。
「もういいよ。」と、動きを止めてやる。そのまま布団の中にうずくまった。

誰が開けていったのか、開け放たれた窓からは、風が暖かくも冷たさを残し、涼やかにカーテンが躍っている。
春になったといっても、まだ肌寒い。
外気に当たっていた顔はひんやりとしていて、布団の中は天国みたいに暖かい。
もっと寝てたいな・・・・・・などと思う。が、仕方なくぼんやりとした頭を無理やり起こした。
なにせ、まだ中学生活2日目そこいら。
遅刻するには早すぎる。

「……今のうちに目をつけられたら、面倒だよなぁ…。」

布団を払いのけると、遠慮なしに染み付く寒気が体にやってきた。
すばやくハンガーに掛けられていた、シワの少ない真新しい制服を手にとって身に付ける。
それから、あまり立ってはいない寝癖を手で直しながら階下へ降りた。


大の字で大人が4人ほど寝転んでも余裕のあるリビングルームには、すでに皆仕事へ行ったらしく誰の姿もない。
人の姿の代わりに、ダイニングテーブルの上にはメモが1つ。
と、横に白いご飯に、まん丸と艶やかな黄身の目玉焼きと、その他の焦げたおかずが少々。
置いてあったメモに目を通して見る。
『ハヤト君へ。仕事に出かけてきます。ミサキさんは仕事にでかけました。父より』
そのメッセージの横には、もう1つ筆跡の違うメッセージ。
『適当に食べなさいよ、残さないでね♪母より』

相変わらず仲が良い。

そう思った瞬間、こみ上げてくるものがあった。
が、気にとめなかった。この感情は何年も前から続いているのだから。

それよりも、もうそろそろ家を出ないと間に合わない。

メモをゴミ箱に落とし、食事を足早に済ます。

外に出て見ると、日差しがさんさんと降り注いでいた。
けれど、やはり風は冷ややかに吹いていた。









校門が閉められる5分前。

ギリギリセーフと行ったところだろうか、なんとか遅刻はしなかった。
入学そうそうは科目の授業は全くなく、しばらく学活が続くらしい。
学活の間を縫っては、クラスの人たちが集まって、グループを和気藹々と形成させていく。
中学1年間の楽しさの要となるだろうから、誰もが懸命だ。
そんな光景を、名前順に振り分けられた席に座って端から眺めていた。
頬づえをつき、ため息をつく。

その時に背後から「よっ!」っと声をかけられた。
見てみれば、見覚えのある顔だった。
と言っても、名前が出て来ない程度・・・・・・確か小学校が一緒だったかな。

一応いつもする様に「おはよう」と笑顔をセットに付けて挨拶をしてやった。
次の瞬間、彼は目をきょとんとさせ、その後顔を赤らめた。
クラスの一部も一瞬だけだが、ざわついた。
女子がこちらをチラチラ見ながら話し始めたところもある。

「ね、ちょっと・・・・。」
「見た・・・・?」
「うん。」

そんな声が聞こえてくる。

人が笑っただけでこの反応。
次にくる言葉は、もう予想済み。



「・・・・・お前、可愛く笑うのな。」





ほら。

いつもそう。
もう1度、笑顔で「ありがとう。」

声をかけてきた少年は「えーっと・・・」と、指で頬をコリコリとかきながら尋ねてきた。



「お前は何の部活に入る?」





その日の5時間目。
部活動見学の時間になった。
クラスの担任の話からすると、今日から部活動を見学、入部が出来るらしい。
わいわい賑わいながらクラスメイトが、教室を出て行く。
残りの人数が3人、2人と減っていく。

あの後「一緒に見に行こうぜ!!」と誘われたが
あまり部活と言うものに興味もないし、1人で居たかったので誘いを断った。
これといって見学する気にもならない。
かといって、後30分くらいは学校から出られない・・・・・。


仕方なくブラブラと廊下を歩くことにした。

ある教室の入口脇を通ると、机を固めて上級生が下級生に何かを教えているのが見えた。
紙の束が机の真ん中にある。その横には新聞紙に油性マーカー。
・・・・・・部活説明会でもらったしおりを思い出す。

確か新聞部があった。それだろう。

その教室の横を通り過ぎて、他の教室の前も通り過ぎる。
空いて使われていない教室もあれば、先ほどのように活動をしているところもあった。
途中、見学をしていかないかと誘われる。
どこも断わって、ブラブラと廊下を歩いていた。

少しすると、グラスバンドの合奏音が聞こえてきた。
盛大な音楽と共に、他の生徒たちの笑い声も聞こえる。




・・・・・・・ふいに何か視線を感じた。

そう、背中のほう。
それも複数。


この手の視線はすでに感覚で知っていた。


はぁ…

短くため息を残して、即座に走った。
階段を目指して。
後ろの方で叫ぶ声がした。
振り向かずに、そして1階へ駆け下りて昇降口へ。

どうでもよすぎて、気に止める気にもならない。
ああいう事をするのが何が楽しいのだろうか。

靴を履き変え、校庭に出た。




太陽の光が直接目に入る。
まぶしい。
目を細めて、視界を確かなものにしようと……。

その時、パンっ!という破裂音が耳に飛びこんできた。
驚いて、音のした方向を思わず見た。
破裂音には聞き覚えがあった。
年に一度。ある行事の時にしか聞かないけれど、それでも印象深い競争用のピストル音。






陸上部・・・・・・・。






先ほどの合図で100Mを4、5人で走っている。誰も彼もが無我夢中に走っている。あ、ゴールした。
少し興味を持ちながら、しばらく眺めていた。

4つ目の走者だったかな…。
ラストの組らしい時になり、数メートル離れたところにいた上級生だと思われる女子達が騒ぎ出した。
誰だかしらない名前を呼んで、その中には黄色い声も混じっていた。

「リュータ君!!!」
「頑張ってーーー!!」
「きゃー!!」
「りゅーた〜〜!!!」


そう呼ばれた当人らしい人がピースをする。
するとさらに歓声は煩いほどに高まる。
一緒に走るらしい仲間に、背中を叩かれているのが見える。
1人が叩けば、横にいたもう1人が、さらに近くにいた人が…と、どんどん広がっていく。
最後には何故か喧嘩みたいになり始め、顧問らしい先生に仲裁され、納まっていた。

何をしてるんだか……

しぶしぶ遠くの方に作られたスタート地点に走者が着く。
その中に、先ほど騒がれていた人もいた。
片足を地につけ、両腕で体を支え、やや腰を高くして・・・・ピストル音が響き。
一斉にスタートしていた。

そしていつの間にか、
リュータと呼ばれた人は誰よりも早くゴールしていた。










その後は、よく覚えていない。
ただ気がつけば、陸上部に俺は入部届けを出していた。





//NEXT


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2004.09.02  リメイク 2005.12.16