すみません、先ほどの声。本当は聞こえていました。
でも、無視しました。無理な話だから。








「しっかり心から笑った方が良いぞ。」









自然のせいにして、先輩の気持ちを無にさせてもらいました。
心から笑うなんて…
今もこれからも、そんな日は来ないだろうから。









story3.....................









平穏な日曜日。
大人も子供もだいたいが休みで、家族団らんにはとても最適な日。

俺にとって、週の中で一番苦手な日だ。




時間は、まだ太陽が真上に登る2、3時間前。
俺はリビングに置かれたソファーに座り参考書を広げて予習をしていた。
しばらくすると、パタパタとスリッパの音がこちらにせまってきた。
「はーやーとぉv」
そんな声が聞こえてくると、背後から勢いいよく抱きつかれた。
抱き疲れた反動で参考書を落としそうになる。
危ない。
抱きついてきた当人は、そんな事を気にすることなく、同じ茶色身のかかった長いストレートの髪をなびかせて。
「この試食品、食べて。」と、皿を一つ突き出してきた。
参考書から目を上げ、手に持たれている皿を見てみる。。
なにやら黒く四角い平べったい物体が山盛りになって乗っていた。
俺でも何か、わからない。

「………炭?」

「違うわよ。クッキー、食べろ。」
俺とそっくりな容姿で、スゴミの入った微笑みでせまりくる。
整った顔立ちで、小顔、スタイルも良い。
にっこり微笑まれたら男ならノックアウトだろう。
俺は自分でも、この人に顔が似たんだろうと思う。
性格は違うけどね。



「……良いけど、俺が味音痴なの知ってるよね、母さん?」
「うん、だから。」微笑みのままで返される。
そうだろう。
普通の味覚の人だったら食べる気にもならないだろう、この物体。

とりあえず、一つ取って口にいれた。
ガリガリと音がする。
「おいしい?」
「固い…。」
味の事は何も言わない。
どうせまずいのだろうから。

回答に満足しなかったらしく頬を膨らまして拗ねた。
とても10代の子供をもっている女性に見えない。
これだけなら、とっても可愛い。
しかし「………ちっ。」と、その後に舌打ちが続く。
そして「全部綺麗に無くしてね。」と、また微笑みのまま無理難題な言葉が来た。

皿を目の前のテーブルの上に置いて、またパタパタとスリッパ音をたててキッチンへと戻っていく。
第2段が来そうだ。

まぁ無理でもないからと、参考書に目を戻しながら皿から1枚手にとった。
そういえば、なんで母さんは朝からお菓子づくりなんてしているんだろう…。



「ハヤトくん、おはよう〜。」
柔らかめなくせ毛な髪に寝癖をつけたまま、ふぁーっと欠伸をしながら、こちらにゆっくりと向かってくる。
足音に音をつけるとしたら、ぽてぽてっといった感じ。

父だ。

「おはようございます。」
父と行っても、二人目の父で、実の父は5歳の時に事故で亡くなった。
母さんは寂しかったのか間もあけずに再婚。
いつの間にか、この人とその連れ子だった姉が家族の一員になっていた。



義父まだ眠たそうな目で机の上の皿に目を落としていた。

「お菓子づくりしてるのか。流石だなぁ……」
これを見て、間発入れずにお菓子づくりなんてわかるなんて凄いなぁ…。
感心しつつも疑問に思った質問してみる。
「何か今日あるんですか?」
義父は皿の上のものを取ろうか取るまいか迷っていた。
結局その隣に置かれているパンを手に取る。

「ん?ミサキさんがねー。」
ミサキと言うのは義姉の事だ。
モデルの仕事をしながら高校に通っている。ちなみに今年受験生。
「大学受験がマジヤバイよって言うから家庭教師をやとったんだ、その人が今日初めて来るみたいだよ。」
ニコニコしながらそう答え、パンを食べようとする。



パタパタと、またスリッパ音が聞こえてきた。


すかさず参考書を閉じて立ち上がる。
「ちょっと、あなたー。食べるものが違うわよぉ。」
また新たな皿を持っている。
皿の上には山盛りの物体。
今度は丸くて平べったい。多分味違いになるはずだったクッキーだろう。
全部例に漏れず真っ黒だ。あいにく味も先のものと変わりなさそう。

「こっち食べてvv」ずいっ皿を前に突き出す母。
「えええーと……」

どうにか食べないよう言い訳を考えている。賢明だ。
しかし、母さんは気にする様子もなく言い放つ。
「……食べてvv」
「……はい。」

この風景は食事の度にみる。
毎度「おいしい?」「おいしいです。」と続き、母が「きゃv」と最後に言って終わる。

俺は第一段目の皿を手に持ち、階段へ歩く。自分の部屋に行くためだ。
途中で忙しそうに降りてきた姉とすれ違う。
軽く天然パーマの入った髪をといでいた。
「お母さーん!お父さん!ご、ご飯っ………あぁあと5分しかないわ!?」
焦った声が聞こえてくる。
日曜日の今日も仕事らしい。
「ミサキー、もう少し早く起きなさいって。はいこれvv」
「……何、これ?」


「炭。」

きっぱりとそう答えた母の声が聞こえた。



やっぱり、そうじゃないか。
手に持っている皿に目を落とし、ため息複数。
そして、その後に続いただろう二人の会話を聞かずに自分の部屋へ上がっていった。





のどやかな日曜日の朝に
幸せな家族による、幸せそうな団らん。
そのなかの1人なのだろうと判っている。



けどさ、どうすれば良いか……わからない。








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20040905  加筆修正 2005.03.02