誰かしら己の武器があって。
それは見えるものだったり、見えないものと様々。
俺にとってそれは『仮面』だったよ。
story5..........
先輩と別れたあと、まっすぐ家に帰った。
近くの電信柱の上では、カラスがカァカァと鳴いている。
そうすると、少しは慣れた場所に他のカラスが居るのか、似たような鳴き声が聞こえてきた。
近くにいた買い物袋をもった親子が、「早く帰りましょうね。」なんて言っているのが聞こえた。
その親子とすれ違い、少し歩いて家の前に到着する。
格子を開け、のっそりと玄関にたつ。
開いているはずのないドアを前にして、ためしに鍵も開けずに引いてみる。
ドアノブをつかみ引いてみると、ガチャっと重い音をたてて軽くあいた。
誰か家に居るみたいだ、珍しい。
中に入って、きれいに揃えられた靴を見てみると、見たこともない大きめの靴があった。
「ただいま。」
とりあえず、靴を脱ぎながら誰が居るのか模索のつもりで言ってみる。
「おかえりー。」
2階の方から微かにに聞こえてきた。
声からするとミサキ姉さんかな。
なら、靴の持ち主はミサキ姉さんの友達だろう。
納得して、喉が乾いたと思ってキッチンへ水を飲みに向かう。
キッチンまでは少し長く作られた廊下をまっすぐ行くだけ。
玄関に置かれた自分のスリッパを掃いて、歩き出す。
そしてキッチンに向かう途中、急に両肩が重くなった。
ついでに背中から人がいる感覚がする。
少し視界を下に持ってってやると、長袖のシャツをを肘あたりまでまくっている腕が片肩につき1本ずつ。
肩の後ろから生えてきたように乗っかっていた。
細くも華奢でもない腕。
どうみてもこれは男の腕だ。
義父さんも帰っていたのだろうか。
けれど義父さんの割には腕に筋肉がついていて、たくましい。
「お・か・え・りvv」
知らない者の声だった。
ミサキ姉さんの友達と思っていたが、頭の中で強盗、変態、空き巣と、どれもこれも迷惑な単語が思い浮かぶ。
なんにせよ、知らない、しかも男に背中によりかかられて喜ぶ趣味はない。
自然と聞き手の腕を前にへと引く。
攻撃準備よし、標的は背中のすぐ後ろ。
即ノックアウトさせて後悔させてやる。
「先生ー!?」
強烈な肘鉄を決める2秒前、階段をバタバタと音をたてながら姉さんが降りてきた。
もしかして、これが前に言っていた家庭教師…?
姉さんは軽く怒っているみたいだ、珍しい。
というか拗ねている…?
「あー!!私を差し置いてハヤトとスキンシップするなんて狡いわ!!先生のばか、まゆげ。」
「ミサキさんよー、まゆげは関係ねぇだろ。ってか、これが噂の弟君のハヤト。だろ?」
頭をポンポンと叩かれる。
やっとそこで肩に乗っていた腕がなくなくっので、遠慮なしに頭を叩く家庭教師の顔をおがんだ。
髪が明るめな茶色、梳いてないのかボサボサとしていて寝起きみたいだ。
肩にはヘッドホンを載せているし、とてもだが家庭教師には見えない。
あ、たしかにまゆげが結構太い。
「もう、トイレで下に降りてきただけでしょ。さっさと2階行きなさいよ〜。ハヤト返せー。」
引っ張られ抱きしめられる。
俺は物じゃないんだけどなぁ……
「姉さん、苦しいって…。」
「あぁ、ごめ、ん!!!!」
抱きしめられていた腕が勢いよく開き解放される。
ゴンっって音がしたと思うと、姉が拳をおさえていた。
「……大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ!!痛くない痛くない!!!……やっぱり痛いかも。」
勢いよく開き過ぎて壁に余って腕をぶつけたらしい。
「なんでも良いけどよー。当のミサキさんは俺様の作った問題は終わったのかな?」
頭をポリポリ掻いて、しかも眠そうに欠伸をひとつ。
本当に家庭教師なのだろうか、町中にいるただのお兄さん、もしくは年を多目に見積もって、ただおじさん程度にしか見えない。
むしろそっちの方が納得してしまう。
「まだです!!」
「あと10分で終わらせろよー。じゃなきゃ次回までの課題、増やすぞ。」
「このクソマユゲ……。」
ボソっと姉の口からそう聞こえた。
その言葉が聞こえたのか聞こえてないのか分からないけど、姉いわくの『クソマユゲ』が言う。
「今すぐ行かねぇと制限時間5分にするぞ。」
姉は文句もしょぼんとしている暇もなく、急いで泣く泣く2階へと戻っていく。
捨てぜりふを1つ。
「ハヤトは虐めちゃ駄目なんだからーーー!!!」
少々その台詞が気になりつつも、姉を見送った。
「あんなんで本当大学受かるのかねー。まぁ俺様が教えるからには受からせるけどな。」
うへへへと奇妙な声をだし、ひょうひょうとしている。
発言はとても教師らしい、けれど態度がそれはらしくない。
変な人だ。
「おう、遅れたけど俺様はDTOってんだ。本名は秘密な。」
うへへと笑いながら自己紹介とも言えない自己紹介。
DTO?
なんだろうそれ、異名かな。
疑問に思いつつも深追いはしなかった。
かわりに満面の微笑みであいさつをした。にっこり笑顔作ってDTOにお辞儀する。
「初めまして、弟のハヤトです。姉がお世話になっております。」
こうしておけば問題はなく、大体は好印象にうつるし。
なにより楽だ。
ハヤトがお辞儀をした後、DTOは目をパチクリさせた。
あ、いつものあれがくるのかな…
頭の端で思う。
「………お前、めちゃく」
バタン!と扉が開く音がし、またもやドタバタと階段から降りてくる音がする。
そちらに目を向けていると姉だった。
息を切らしながら、はぁはぁと呼吸をととのえている。
「せ、先生。お…わりました。だから課題はなしよ〜!?」目尻に涙が貯まったままミサキ姉さんは言った。
課題って………涙ぐむほど、そんなに凄いのかな。
DTOは先ほど切れた言葉の先は言わず、時計を確認をている。
「……おし、時間内だな。んじゃ課題はなしなー。」
「やったー!」
「そのかわり宿題は出すぜ?」
「え…マジ!?」
「おう、マジマジ。」
ミサキ姉さんはショボンとする。
もしかして、そのたぐいが凄い嫌いなのかな……。
「あ、先生!時間時間!今日はこれで終わり、荷物もってきてあげるからまた次回にしましょうよ!……駄目?」
どう見ても時計がついていない腕をパタパタとさせて提案をする。
また先ほどみたいに壁に手をぶつけそうだと思っていると、案の条ぶつけていた。
痛がる姉さんを片目に見ながら、近くにある窓から外を見た。
外を見ても日が完全に沈んで間もないくらいだ。
「良いでしょ?ね!!」
目じりに出てきた涙をそのままにして、気を取り直して姉さんが言う。
もうそろそろキッチンに行って水が飲みたいんだけどなー……
つい先ほどから、ミサキ姉さんに片腕を掴まれていて行こうにもいけない。
「ミサキさんよー。……俺様がおめぇの親に怒られんだろそりゃ。」
「先生が怒られようが、私は知らないもの。」
「そりゃそうだろ。」っと頭を再度ボリボリと掻いた。
不機嫌そうだ。
「ねー!良いでしょう!!」
さらに姉さんの攻撃は続く。
「お母さん達には私がハッキリ伝えとくから!!だから、ね!!ね!!」
どうするのか腕を掴まれたまま脇で傍観していた。
説得20分くらいしてついにDTOは折れた。
「わかったよ。帰りゃ良いんだろ…。んじゃあ俺様の荷物取ってこい。ほら行ってこい。」
しっしっとした動作で追い立てる。
そんなDTOの態度も気にせず生き揚々とスキップしながら取りに向かう姉の根性に感服した。
そこまで勉強嫌いなんだ……。
「あいつもねばりやがって……次回は超難問大学の入試問題やらすかな。」
大人げない事言ってる大人がいる。
別に良いじゃないかな、早く終わっても。
あ、目があった。
とりあえず笑っておく。
「………。」
怪訝な顔をされた。笑って返してこんな顔をされたのは初めてだ。
何故、怪訝な顔をするんだろう。
「おめぇ、さっきも言おうと思ったんだけどよぉ。」
「何がですか?」
両肩に軽く手を載せられる。
DTOは先ほど変わらない表情をして言う。
「笑い方がめちゃくちゃ、うさんくせぇ。そんな笑い方してたら何も良いことなんてないぜ?」
胸のどこかが痛んだ。
しかし無視をする。かわりに言い返してやった。
「そんな事はないですよ。良い事なら結構あります。」
数秒の沈黙が続く。
困っているような、なんていうか、複雑な表情をさせている。
他人の為になぜそんな表情ができるのだろう。
端の方で考えながら、ニコニコとDTOを見ていた。
「あー…まぁお前が良いなら良いけどよ。あまり無理すんな。」
頭をポンっと叩かれる。
そして俺に背を向けて玄関へ歩いていった。
その動作が一瞬誰かと重なった。
背筋に冷や汗がたれる。
ピキッと小さく、何かの音がした気がした。
見送らねばと、後を追う。
足が重く感じた。
いけない…。
「お待たせ!!はい先生ゴートゥーバックホームよ。」
合っているんだか間違えているんだかわからない英語を使い荷物を受け渡す。
荷物は鞄が一つに、紙袋がひとつ。
「おう、サンキュー。」
すでに靴ははきかえていて、玄関で荷物を受け取る。
DTOは顔をこちらに向けたままドアに手をかけた。
「そうそう次回までしっかり勉強しとけや。ミ・サ・キ?」
「そういう呼び方しないで下さい!!」
ケラケラと笑っている。
とても楽しそうだ。
「ハヤトくんよー、じゃあな。」
そう言ってさっさっと家を出て帰って行く。
そしてすんなりと、DTOはその場からいなくなった。
ドアがしまると姉さんは地団太を踏んで文句を怒り気味に言いだした。
「あの家庭教師!ことごとく私の事いじめていくんだから!まゆ毛太いし!!
なんであんなのがいるのー!!?・・・・・、そういえば、ハヤトはいじめられなかった?!」
耳の外の方で音がする。
俺は手で顔を隠すように押さえたまま、すぐ横にいる姉さんの声に気がつけずにいた。
体に違和感を。
外界とのつながりを無意識にシャットアウトを。
いけない。駄目だ。
自然と押さえる手に力が入る。
「ハヤト?」
呼ばれる声が微かに耳に届いて、無理矢理漏れだした気持ちを押さえつけた。
諦めた、いらない気持ち。
手で押さえつけた下で深く息をすう。
呼吸時に、吐き出される二酸化炭素と一緒に捨ててしまう。
そして空っぽの酸素を吸った。
「何、姉さん?」
顔を押さえていた手をはずし、笑顔で問う。
自然に、これが普通の表情なのだと。
「……ううん、なんでもない!!大丈夫だったみたいねv」
姉さんは嬉しそうに、俺は何の抵抗もせず頭を撫でられる。
じっと撫でられるままでいるとミサキ姉さんはギュっと一回俺を抱きしめた後自分の部屋にあがっていった。
笑顔で2階に行くのを見守って、その後俺は台所でやっと水を飲んだ。
コップ1杯の冷たい水。
カラカラに乾いてしまった体に潤いを。
だけど、ひび割れたものは直らない。
頬の端から壊れだしてしまったから。
このまま、このまま。
何も変わってくれないで。
このまま、このまま。
何も壊れるな。
空っぽの心を満たせる物なんて、すでに失ってしまったんだから。
アレの行動は、幼い記憶の中で残る。
父が亡くなる前に見た最後の姿に似ていた。
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20040910 加筆修正20060603