壊れかけた毎日をかけて
本当のようで偽りな毎日を背負う。
story6..........
空はグレーがまじり、陰っていた。
もう周りは暗くなっていて10メートル先なんてとても見にくい。
空気なんてものもヒシヒシ冷たいし、息は白く吐き出される。でも風が余りないのが幸い。
「大丈夫か?」
学校からの帰り道。
また先輩と帰る。
あの日より後もたびたび先輩は先生に捕まり、その度に一緒に走らされることがあった。
まぁ、そう毎日とはいかないけれど、週に1度は必ずっといった感じだ。
そんな日は、ほとんど一緒に帰る。
「お前さっきタイムが延びてないって言われてたろ?」
沈んでるぞ。っと先輩から心配の声をかけられる。
特にその事に沈んでいたわけではないが、あまり元気に振る舞えていないのは確かだった。
心配されるようじゃいけない。
「大丈夫です。ただ、今はナイーブな時期なんですよー。部活よりも悩んじゃうお年頃なんですぅ〜。」
口調を変えて、わざとらしくため息も付け加えた。
息は白く湯気のように吐き出される。
頬に手もそえてみて、わざと乙女っぽく振る舞ってみた。
先輩はブルっと体をさせて首につけていたマフラーをズイッと上げた後、両腕を服の上からおもむろに擦りだした。
むしろ、腕を掻いていると言った方が正しい。
「その反応はないですよ、先輩。」
「悪ぃ、つい。」
苦笑をしながら引き続き腕を掻いている。
失礼な。
けれど自分でも考えてみると寒けが走った。
流石に腕がかゆくはならなかったが、寒く感じてマフラーを口元らへんまで上にあげた。
前方を見ながらお互いに顔をみないで会話する。
先輩は部活後だと言うのに元気で、次々に話題はあふれてくる。
今日の昼はなんだった、サッカーをしてたらこけた、校舎内に何故か猫がいた、とか。そんな他愛のない話がほとんど。
そして、あの話。
「そうそう最近さぁ、バイト先の近くのバス停にあのすっげえ可愛い人がまた居るんだよ!!」
「へーー。」
度々出てくるのは、バス停にいるという凄い可愛い人の話。
声を掛けようと決めたとたん消えたとか・・・その前は、ドキドキしちゃって声を掛けられなかったとか、なんとか。
「なんだよ、その反応……ハヤト君、恋してますか〜?」
「してませんよ。面倒くさい。」
ため息混じりに吐き出した。
先輩も知らないけれど、今日も1人断わったばかりだ。
「恋する気に更々なれません。」
ちっちっちっちっと、わざとらしく声に出した後、先輩は言う。
「そんなんじゃ駄目よ。星のほど恋をして星の数ほど人を好きにならなきゃ。人間大きくなれないぜ?」
「先輩のそうゆうとこは嫌いです。」
「そう?でも恋はしろよー?先に好きになった方の勝ちだし。」
さらっとかわされる。
この軽い感じがとても心地よいとは思う……あれ、先に好きになった方の勝ち?
たしか前にどこかで聞いた話では・・・・
「先に好きになった方が負けなんじゃないですか?」
先輩は暑くなったのか、マフラーをはずしている。
息は白くて、数秒間息跡は空に登りながらも残っていた。その白い跡が消えたと同時に、先輩は楽しそうに言った。
「好きになった方が勝ちだって。これ俺法則。丼に愛情をささげ続ければ美味しくなるのと同じ。」
「……その例えはよくわかりません。」
先輩にとって人と丼は平等らしい。
それは、前々から重々承知しているのだけれど、今回のは理解しがたい。
愛を捧げると、さらに何がよくなるのだろうか?
となりに並んで、考えながら歩いた。
俺が黙っていたら、先輩が空を見ながら話し始めた。
「お前がまじめに走ったら絶対早いと思うんだけどな、俺。」
また話が変わった。
今度は部活のことだろうか?
「真面目に走ってますよ?それでタイムが延びてないんですけどねー。仕方ないです。」
「そうじゃなくてなー……うん。」
言うか言うまいか迷ったのか数秒沈黙した。
数秒後に「言っても良いか?」と聞かれる。
「どうぞ?」
いつもならはぐらかすのに、先輩は珍しくその続きを言葉にする。
それがやけに不思議に感じて耳を澄ました。
「お前はもう少し周りに気使わなくても良いんじゃね?」
足を止めた。
否、言われた事にビックリして足が止まった。
前方を見ながら先輩は言ったので、表情はわからなかった。
「え・・・・・・。」
それは確信をつかれたもので、ごまかしたいもの。
けど、声は、マフラーは外された事でしっかり聞こえていたわけで。
先輩は空を見上げるのを止めて、今は俺を見ていた。
先輩の態度は至って普通。ここで笑い飛ばしても、意味はなさそう。
風のせいにしようにも、今日はあいにく吹いていない。
はぐらかすにしても、声はいつもより真面目たった。それに、言葉だけだと言うのは俺にとって、それはとても重く感じた。
顔が見えていた方がよっぽど軽く受け取れたってものだ。
「先輩は無理な事を言いますね。」
にがく笑いながら返した。
こう来られてはこちらも真面目に返すしかない。
「そうか?簡単な事しか言ってねえと思うけどなぁ。」
「それが、俺には難しいんです。」
「簡単にしなさい。」
先生みたいな事を言われる。
これ以上は、何を言っても不毛な気がして止めた。
それに確信をつかれたわけだけれど、言われた事でなんだか少し軽くなった気がした。不思議なものんだ。
先輩に背中を2、3回バシバシ叩かれ、いつも通り頭に手を乗せられて顔をのぞき込まれる。
いたって先輩は普通な態度。だから、顔をのぞきこまれても違和感を感じたことはない。
「会った時より悪化してっけどよー、頑張れって。俺いなくなっても頑張れよ。」
そう言って、ふいに先に歩いて行く。
無言で後をついて、あまり間を開けないようにしながら歩いていた。
あ、そうか。
何故言う気になったのかを、考えていた。
先輩がずっと言わなかった事を言った原因がわかった。
今はもう、受験は入試も入学手続きも完了していた。受験生に残された行事と言えばあと1つだけ。
1週間後には、そうーー。
「寒ぃ。」
「そうですね・・・・。」
理解できた時、寂しく感じた。
涙は出ないけれど、やけに悲しく感じた。
1週間後、先輩は卒業した。
卒業式から1週間が経った今。
週に…月に1度は見れていた先輩の走りは見れなくなった。
それからはポッカリ空いたものが胸の中にある。
そこには、徐々に徐々に不快なものが貯まっていく。
気がついたら、部活には参加しなくなっていた。そして、もうすぐ春休みになる。
廊下を歩いていたら陸上部の先生に呼び止められた。
「最近どうだ?」「部活もう出ないのか?」
心配されているのが手にとるようにわかる。
「大丈夫です。」
心配されぬよう笑う。
大丈夫です、大丈夫です。
ちゃんとやっていますよ。心配しないで下さい。
けれど部活には出る気になれない気分だったから、しばらく出ないと告げた。
「そうか……お前がそう言うなら仕方ないな。参加する気になったら言えよ。」
「はい。」
頷いて、そのまま去った。
廊下を歩いているとチャイムが鳴った。
教室に戻る。
クラス内は、先生がいないのを良いことに休み時間の延長で遊んでいるやつが8割。
騒がしい。
席につこうとした途中で肩を捕まれ、つかまった。
「ハヤト、お前もトランプやらねえ!?ずっと俺負けっぱでよー。」
「おい大貧民王。ハヤト入れても変わらねぇって、お前の、マ・ケ。」
「うるせー!!!!」
バカにされ気味な挑発をされ、声をかけてきたやつは勝負に戻ってく。
俺は、そのままやっぱり席に向かう。席につく。
席に座って、先生が来るまでのんびりしようと。
けれど、まわりから声をかけられる。
自然と、俺のまわりにはクラスの人たちが集まった。
「ハヤト。」
「ハヤト君。」
「ハヤト。」
「はやとぉー。」
男子からも女子からも。
その度に相手をする。
笑って、頑張って、励まして冗談を言って。
笑いながら頑張って。
先生は遅れてやって来た。
授業が10分遅れで開始して、やっと皆から解放される。
その時には気分が悪くなっていた。
腹の中がグルグルして、頭痛がした。
それでも授業を受ける。
となりの席のやつが授業について行けず質問してきた。
「これってさ……」
問題を指差しているから、覗きこもうとして視界がゆがむ。体に軽い浮遊感。
今出せる力で体を机に支えた。
額を押さえていると横目に教科書を片手に心配そうにみているのが見えた。
「大丈夫。」
もう全然わからない感覚のまま無理に笑った。
相手がホッとした顔をしたから、ちゃんと笑えていたッポイ。
質問された部分を教えてやって、引き続き授業受ける。チャイムが鳴った。
やっぱり、体調はすぐれなくて、まだ頭痛がする。
俺は荷物をまとめて、先生に早退すると伝えることにした。
「無理するなよ。」
「大丈夫です。」
本日3度目の題詞を言って、先生にさようならと挨拶をした。
ひとりで昇降口を出たら、空は泣きたいほど明るくて。
むかつくほどに爽やかで。
胸の奥はドロドロと黒いものに満たされてしまいそうで
気分は最低に悪く、歯をくいしばりながら帰った。
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20040910 加筆修正20060607