『こんにちわ、ハヤト君。今日から僕がお父さんです。』
story7..........
次の日は体調を崩して学校を休んで
その次の日も次の日も調子が戻らなくて
家のリビングのソファに横になって休む。
ベットに寝ているのも良いのだけれど、重病人みたいだし。
夢見もあまり良くなかった。
リモコンを片手にテレビをつけて、特に見たい番組がやっていないから適当なチャンネルにしていた。
超人気バンド『Deuil』の秘密☆なんて特集がやっている。
犬が映っている。
犬がメンバーなんだ…あ、狼なんだ。
喋ってるよ。語尾が「ッス」だよ。
ドックフード嫌いなんだ。
どうみても犬なのに。
「ただいまー。」
玄関がバタンと開く音がして、ドタドタと上がってくる音がした。
ビニール袋のこすれる音もする。
廊下とリビングの間にあるドアが勢いよく開いた。
「はーい、お母様のおかえりよー!!おかえりは?」
スーパーの袋を両手に持った義父を後ろに、母がショルダーバックを片手に入ってきた。
テレビの電源ボタンを押して、ソファーから上半身を起こす。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
よしよしと頭を撫でられた。
父は目の前のテーブルの上にスーパーの袋を置いて中身を広げている。
マカロニ、ベーコン、人参、牛乳にパン粉。それに卵と続いていく。
見える限りでは、半分の袋はお菓子でいっぱいだった。
「今日は普通に食べれそうかい?」
「はい。」
本当は全然食欲はなかった。
何も食べる気がしない。
けれど心配をかけたくない。
いつの間に台所から持って来たのか母さんはコップを片手に持っていた。
嬉しそうにテーブルの上にコップを置いて、いま先ほど買ってきた牛乳の封を開け、コップに注ぐ。
そして風呂上がりに1杯を飲むように腰に手を当て、一気に飲み干した。
テーブルの上にコップを置く。
「出かけた後はやっぱりこれよね。ハヤトも飲む?」
「牛乳嫌いだから、いらない。」
ウキウキとしていた母さんの動きがピタッと止まって固まってしまう。
手元には、縁ギリギリまで牛乳が注がれたコップを握りしめていた。
10秒くらい母さんは固まっていて、義父が目の前で手を振っても動かない。
その後、動いたと思い気や、グイッと一気にコップの中の牛乳を再び飲み干してしまった。
そして、フハーと息を吐いてから口を拭っている。
「あんた味音痴なのに牛乳嫌いなんだっけ?」
「味音痴でも味覚あるんだから好き嫌いくらいあるって。」
「なるほど。」
納得して、台所へコップを置きに行ってしまった。
体を起こしているのもダルくなってまた横になる。
台所からはすでにいつものように夕飯の準備に追われ始めたた義父が野菜をトントンと切る音が聞こえる。
遅くもなく速すぎでもないそれは、したたかに眠気を誘う。
暖かい雰囲気がただよって、自然と目を閉じた。
嫌いなわけじゃないんだ。
むしろ感謝を…
義父さんが……
義父さんの驚いている声が聞こえてきた。
母さんが…何かしたのだろうか。
母さんが大笑いする声も耳に届いてたきた。
なにか楽しい事でもあったのかな・・・・・・
意識はもうモウロウとしだしていて、数分もしない内にシャットアウトした。
泣いている子供がいる。
大きな口を開けて、目元に手を当てたまま、ボロボロと垂れる水滴。
白い空間にただ1人。
あれはーー
「……よ!!」
・・・・?
何・・・?
ミサキ姉さんの声で目が覚めた。
覚めたと言ってもまだ半分は夢の中で、座ってボケッとテレビを見ている感じだ。
テレビの斜め上あたりに壁にかけられた時計を見てみると、母さん達が帰ってきてから40分後くらいだった。
寝ちゃったのか…
結構疲れてるんだなと実感する。
頭がボーッとしながら体を起こした。
目をこすって、何処かまわらない頭で目の前での出来事を眺めた。
「だからぁー、違う先生にしてよ。」
ミサキ姉さんがいて、その隣には父さんがいて。
二人が会話をしている脇をマイペースにお皿を運んでいる母さんがいた。
「でも僕はあの先生って結構良いと思うんだけどなー。」
「ええ、何処が!?」
おだやかな父さんのしゃべりに対してミサキ姉さんの声は大きく。ボーッとした頭に響いた。
「生徒思いっぽいし、のぞきに行ってみれば教え方も上手だったし。何より、あのりっぱなマユゲには尊敬しちゃうな。」
マユゲと言う単語に無意識に以前に1度会ったあの人の顔が浮かんだ。
オレンジ色に近い髪をして、いかにもだらしない様な格好をしてた・・・・・
えーと、なんだっけ。たしかアルファベットが3つ並んでたような…。
「DTOさんでしょ?」
そう、それ。
皿を全て運び終えた母が会話に参加した。
目の前には家族が立ったまま会話をする姿。
「あの人良いわよねー。たくましいし、頭のボサボサ感も良いし。何よりマユゲが最高よ。」
「だよねー。」
「ねー。」と仲良し気に手を繋ぎながら顔を向き合って同意している。
仲が良いな。
「もう!お母さんの言ってることって全部関係ないじゃない!それに、マユゲは太すぎて嫌なのよ!!!」
「嫌よりも尊敬しなさいって、あんなマユゲそうそうおがめないわよ。ねー?」
「ね。文句いっちゃ駄目だよ、ミサキ。あんな先生そうそういないんだから。」
またもや仲良く同意。
あぁもう。
自分にしては珍しい。
イライラする。
見ていられない、見たくない。
再び横になった。
幸い、うたた寝をしたすぐ後だったから意識はすぐに底へと飲み込まれていった。
トロントロンとまどろむ暇もなく再び。
泣きかけそうなミサキ姉さんの声を置いて暗く闇の中に落ちていく。
祈るように
目が覚めたらリビングは真っ暗だった。
不思議と目は暗闇に慣れていて、外から入ってくる微かな電灯の光で周りがよく見えた。
体の上には、いつの間にか毛布がかけられていて、体は冷えていない。
暖房も入れていてくれたのか空気はほんのり暖かい。
起きてみるとテーブルの上にはラップで封をされたグラタン。
それにメモ。手にとって内容を見た。
「食べれたら、温めて食べて下さい。」
父の字でそう書かれていた。
そしてそのわきには母のメッセージかキスマークが1つ。
いつも同じ
いつもそう。
いつも置いてあるメモは二人とも 一緒に。
寝れば収まる思ったのに。
収まるばかりか、抑えることはもう無理で
気持ちを吐露する替わりにメモをビリビリに破り去った。
切れ端が足下に散らばる
棒のように突っ立って、何処を見るわけでもなく、ただ前を見つめた。
外は電灯以外、とても暗い。
家の中もまっくらで視点の中心に置くものはなにもない。
なにもない。
紙のゴミをそのままにしとおくわけにいかないから、拾うためにしゃがんだ。
一枚一枚拾って。
手の中に収めて。
丸くなって膝を抱えた。
静かに…静かに蓄積され。
今にも破裂しそうなそれを、埋めて、閉じこめて。
だからこそ迎えていた毎日は。
すでに迎えられそうになさそう
溢れだして、漏れだして体中にまとわりつく。
・・・・・・どうにかなれ。
BACK// //NEXT
---------------
20040910 加筆修正20060610