story8..........
体調が元に戻った時はすでに春休みに入っていた。
ジリリリリリと鳴る微かな音に目が覚める。
早朝に鳴るように設定された目覚ましに気がついて、起きると時刻は昼過ぎ。
洗面所で顔を洗って。
歯を磨いて。
服を着替えて食事をとる。
少しのんびりと、いつものソファーに座ってテレビを見た。
その後に上着を羽織って外に出る。
何処に行くわけでもなく、ただ町中を徘徊するだけ。
CD屋、本屋にコンビニゲーセン。宛てもなく歩いて、夜になるのを待つ。
そして母さん達が寝ついた頃に家に帰る。
起こさないように、見ないように。
気にしないように。
そんなのが習慣になりだしていた。
そんな事をしていると、毎日見かける顔がある。
町中を毎日ぶらぶらとしているだけでも必然と知り合いは出来る。
願いもしないのに目があって微笑み返しただけで人は寄ってきた。
町の中心部は少々歩いただけで声を掛けられる。
ほとんどはケラケラと、馬鹿なほどに笑ってるやつばかり。
顔を合わせたら、挨拶程度に話をして徐々に裏路地部分へと歩いて行く。店のネオンが少なくなるにつれて少しずつ人は減っていく。
そのまま歩いていくと角に行きついた。
そこには数人の人が座り込み、ガヤガヤと騒いでいた。その中の1人が俺に気がついて、手を振りあげた。
「ようハヤト。煙草すうか?それとも今日はバイク転がしてみっか?」
「いや、俺と酒飲もうぜ。」
願いもしない知り合いの中には気が合う人たちもいた。
だいたいは、髭を生やしたような明らかに年上の人たちだったが、不思議なことに同じ年くらいの知り合いよりもこちらの方が気が合う。
「こんばんは。」
「おう、こんばんはだな。まぁ入れ、入れ。んで俺と飲み比べしようぜー。」
うわべだけのつき合いがある場所。
年も本名も聞きやしない、ただ呼び名さえ判ればいい。
そんな場所。
「何言ってんの、未成年だよ。それにハヤトは私と遊ぶんだよねー。」
「うるせぇアマ。」
もちろんその中には女性もいる。
「うるさいハゲ。ハヤトー、今日も私と遊ばない?また色々教えてあげるから♪」
頬にキスをされ、抱きつかれる。
「ねぇねぇ?」と迫られる。
腕をほどいて、ニッコリ笑った。
「今日は止めときます。」
それだけで、その女性は退いた。
そして生き揚々としながら他の男性に次々に話しかけていく。その度に頬にキスをしているのが目に付いた。
「じゃあまた今度ね♪」
そして、また再び頬にキスをされる。
ひょうひょうと面白いものを求めてさまよいに行く。
「良い女なのに節操なしなのがたまに傷でいけねぇなぁ…」
ひとりの誰かが言った。
頬を服の袖で拭って、その場に一緒に座り込む。
だいたいは煙草をすっていたり酒を飲んでいたりするその人たちと
時々勝負がてらにスポーツをしたり。
お酒を飲まされたり、色々な遊び方を教えてもらったり。
その日の気分によってする事が違った。
今日はただの会話。
「よぉ、ハヤト。お前これやってみる気ねぇか?」
今日は俺より後に来たこの人。
無精髭を生やして、がたいの良いこの男性。
みんなにはオヤジさんって呼ばれていて、この集まりのまとめ役みたいな人だった。
手には、オヤジさんには不釣り合いなスケートボード。
紅みたいに真っ赤な表に、黒く塗りつぶされた裏面。
デザインは至ってシンプルで、それでいて派手だ。
それをオヤジさんは片手で鷲掴みにしていた。
「どうしたんです、それ?」
「ん?いや、あのよー。ちょっと興味あってやってみようと思ったのよ、けどよー。」
「オヤジには難しくて出来なかったんだろ。」
「……ほっとけ!!」
からかい気味にいわれた言葉にオヤジさんは顔を赤くした。図星だったらしい。
場はドッと湧き、しばらく笑い声がこだまする。
腹を抱えて笑う人がいて、オヤジさんは手に持っているスケボーを投げかける。
流石にこれ以上は怪我人が出て危ないと悟り笑い声は止んだ。
けれどまだ肩をふるわしている人もいる。
「…ともかくだぁ。おめぇやってみる気ねぇか?で、俺の夢叶えてくれや。」
「……夢?」
スケボーを手渡される。
誰かが止めとけ止めとけと言っていた。そして違う誰かに征される。
オヤジさんはコホンと咳払いをして俺以外の皆を見渡した。
気恥ずかしいのか、それともまた笑われるようなことなのか。
「あのよぅ。」と小さい声でオヤジさんは手で回りに聞こえないようカバーして俺の耳元で喋る。
夢の内容を言われてビックリした。
「………本気ですか。」
「本気だった。」
胸を張って堂々と。
脇にはこっそり近づいて内容を聞いてしまった一人が笑いころげている。
「……夢はともかく、スケボーはやってみますよ。」
スポーツは嫌いじゃない。何より興味もあった。
ただ夢の内容は、俺には無謀で。
驚愕はしたが、心は全く動かなかった。
「よろしくな。」
オヤジさんは照れくさそうに笑った。
笑いかえす。
さきほど盗み聞きしたひとが道路に笑い転がり続けてるのがオヤジさんの目に入り渇を入れられている。
頭をポコンっと叩かれて、ガミガミ注意される。側からみていると、父親にその子供みたいだ。
また皆は笑いだし。俺もまた笑う。
オヤジさんが俺に言ったのは、こうだ。
『好きな子が倒れてたら、それに乗って運んでやるのが夢だったんだ。』
張り付けて。
自分さえでも忘れてしまった笑い方を必死に思い出しながら。
必死に……。
次の日から練習をした。
練習する日が増えるにつれて、町を徘徊する回数は減った。
転けて膝を擦りむいて、生傷は耐えなくて。
それでもただ夢中に。
学校が始まっても生活習慣は変わらない。
朝学校へ行って、学校が終われば荷物を家に置くかわりにオヤジさんに貰ったスケートボードを片手に夜中まで。
母さん達が寝静まるまで夢中に。
何もかも忘れていられたから。
そうしているうちに月が何度か過ぎた。
「いつも何処に行ってるの?」と流石に聞かれるようになっていた。
適当にごまかして、また夜の町に。
「どうだ?上手くなったか?」とオヤジさんに聞かれる。
「少しは。」
そう答えるとオヤジさん嬉しそうにした。
頬を軽く赤らめて、幸せそうに。
カラカラに。
自分勝手に過ごしているはずなのに。
カラカラに乾いていく。
俺は何をしているんだろう。
人のために………、自分のために?
からっぽだ。
BACK// //NEXT
---------------
20040910 加筆修正20060612