story9..........
中身を飲み干してしまった真っ白なカップみたいに
もう何もない感じ
………満たしていたものは何?
目の前を、何台もの自転車が通り過ぎていく。
通り過ぎていく自転車のカゴの中には学生カバン、もしくは空っぽのまま。
ガヤガヤと自転車に乗った高校生が、門の溝にタイヤをとられながらもスピードを緩めることなく次々に出てくる。
その度にガシャンガシャンと音がした。
時々徒歩の人がいて、自転車の合間にチラホラリと見られる。
門から出てくるそれらの人は、バレるかバレないか程度にちらりと目線を向けてくる。
気にはしても、見ただけでまた道に目を戻して通り過ぎて行く。
そんな人たちを眺めているのは俺。
俺は、先輩が来るのを高校の門の前に立って待っていた。
ふいに浮かんだ、風を切るように走る姿。
急に先輩に会いたくなった。
幸い先輩が行った高校は中学から、数分と近かったから通ってみている。
本日で、待つようになって幾日が経った。
けれど先輩には一度も会えないまま。
かわりに声を掛けてくるのは女子高生達で、きゃあきゃあと興味深々に近づいてきた。
決まって「ねぇ君どうしたの?」「誰か待ってるの?」と聞いてくる。
相手にしないでいると消えるから無視をした。
今もうるさく声を掛けてきた2人組が諦めて離れていった。
そのまま門の前に立って待つ。
30分待って。
1時間…2時間と経って。
帰る生徒の姿がいなくなった。
静寂としている中で見るのは鳥だったり。買い物袋を携えたオバさんだったり、通りかかる車だったり。
先輩は、もう帰ってしまったのだろうか
それとも何か部活をやっているのだろうか
……もう少し待ってみよう。
もう1時間くらい待っていたら、部活を終えた人達がぞろぞろ出てきた。
重い荷物を自転車の籠に入れた集団が、次々と通り過ぎていく。
その中に先輩の姿があるかどうか探す。
一人一人顔を見てみて…
先輩の姿を探す。
けれど、その中にもいなかった。
そしたらすっかり気が抜けて、その場にしゃがんみこんだ。
久しぶりに会って、話がしたくて。
……もしかしたら、あと少ししたら先輩は神出鬼没だから現れるんじゃないかと思ってしまって。
動けないでいる。
「……今日も無理なのかなぁ。」
そろそろ行こうか。それとも、もう少し待とうか…
下を向いて道ばたを眺めて迷っていた。そんな時だった
「あんた何してんの?」
また声を掛けられた。
またどうでも良い奴かと思ってそのまま道ばたを見つめて無視をする。
知らない。
相手にしないでくれ。
「なー、何してんのさ?」
それでも同じ質問をしてくる。
思えば、声は男で、ここで待っていて男で声を掛けてきたやつは初めてだった。
そして同じ質問を繰り返してきたやつも初めてだった。
「何してんだよー?」
しつこい。
ため息をついて、仕方なく答えた。
このタイプは1度答えたら納得するタイプだろうから。
判るようで判らないように。
「リュータって人を待ってるんです。」
どうせ知らないだろうから。
それに、人づてに連れてきてもらう気は、さらさらなかった。
「リュータ……って、あいつか?」
…?
リュータなんて在りふれた名前だし、判るはずもない。
もし心当たりがあったとしても、多分違う人だ。そう結論づけた。
もし判るとしたら一言で本人だと判るアレしかない。
先輩が摩訶不思議なほどに愛して止まない『アレ』。
「あいつなら丼バカだから、足早にさっさとバイト行っちゃったぜ?あぁくそ。丼バカリューター!!俺の補習に付き合えよなー!!!」
わめくかのように
誰かに当たるかのように吼えて、うるさいと思った。
でも……。
丼……バカ。
そう丼だよ。
先輩かも…。
もしかしてリュータって、この高校に1人なのかな?
な、わけないか。
ともかく今日も会えない事が確実にわかった。
帰ろう……。
「俺ってバイト先しらねーから、あいつに会いたいなら……ほい。これ。」
立ち上がって去ろうとした。
お尻をあげて立とうとしたら横に手を差し出されていた。
見てみると手には紙切れ1つ。
押しつけられるように紙を渡される。
ノートくらいの大きさを4つ折りにした紙。
広げてみたら、でかでかと数字が並んで書かれていた。
「あいつの携帯番号。電話してみたら多分つながるぜー。」
「……。」
「あ、お礼はノーサンキューだからな。困ってるやつ助けるのは当たり前だぜ!」
別にお礼をするつもりはなく。感謝の捻を感じるよりも前に、呆れていた。
個人情報をこうも赤の他人に簡単に、しかも他人のものを教えて良いものかと疑問に思う。
その前に携帯とか電話とか、そんなものはどうでも良くって。
ただ直に会って、前みたいに話をしたかっただけなのに…。
紙から目を離してみると、いつの間にかそいつは姿を消していた。
左右の道路を見渡して
姿形もない。
どうやら、さっさと帰ったみたいだ。
先輩に連絡する気はさらさらなかった。
けれど捨てる気にもならなくて、その紙を再度眺めた。
裏に返してみる。
それは数学の問題紙で、ほとんどバツがついていた。
丸が付いてるのなんて2、3個。
字が凄く汚くて、名前の部分が全然読めない。
無理矢理読んで見ようとしたが、最初の文字にさえつまづくしまつ。
えーと…き、いや、……さ?
無理だ、読めない。
「………。」
無視をするつもりで顔も見なかった。
……お節介野郎。
とにかくポケットに紙を閉まってスケボーに乗った。
ゆっくりと蹴ってゆっくりと進む。
今日も練習をしに行こう。
全部忘れに行こう。
それしか出来ないから。
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20040929 加筆修正20060629