story10.........










弾みをつけ、勢いよく地をけり出す。

空にさけ。


静けさの中の小さな内の声に傾けた。

足下に集中を決して、空へ身をあずける。
重力によってそこに留まる事は叶わず、浮遊間を感じる前に徐々に徐々に地へと戻される。
その間にも地と体の間にあるボードは軽く1回転をする。

狙いを定めて着地をした。

足下ではボードのタイヤがゴロゴロと廻り続けた。
風を感じ、髪が軽く散らかった。
前が見えなくなってボードから足を下ろして止まる。



「……出来ちゃった。」


何度やっても失敗していた。
何日も何日もを練習した。
それでやっと今成功した。

我に返って時計を見たら、午前0時。
時々行き交う人の姿はすでに知っている顔しかいない。
もうそろそろ帰ったほうがよさそう。

またスケボーに体重をあずける。
地を蹴り、すべりだす。

家路への道を進むにつれて成功した実感がふつふつとわいてきた。
蹴る足を早めて、スピードを上げて、家へ向かう。

顔に風を感じながら、自然と口の端があがった気がした。



もっともっとスピードを上げて




家に到着して、外から部屋の明かりを確認した。まず階下を見て、次に階上の窓を見る。
どの部屋もついていない。
いつものようにポケットを漁って鍵を取り出す。鍵穴に差し込んで、ガチャっと音が聞こえたら出来るだけ静かに玄関のドアを開ける。
そっと靴を脱いで、忍び足で階段を上りきる。
自分の部屋にたどりついてボードを部屋の入り口付近に立てかけた。

そして、さっさと布団に潜る。

この小さな至福感が消えないうちに
久しぶりに良い夢が見られそうな気がした。














「こんにちは。」






泣きわめく子供がいた。


頬は涙で満たされたまま、混沌とした淵で覚悟したばかり。




「こんにちわ。」



決めたばかりの覚悟の上をヒョイと通り越し

その人は現れた。






「こんにちは。」


知らない大人の男性。
その隣には幸せそうに、とても幸せそうに顔を緩める母さん。

「こんにちは、ハヤト君。今日から僕がお父さんです。」

呆然として、
驚異的に膨らんでいくそれに、自ら穴を開けた。







頬を濡らした涙は涸れ果てゆく。



















目を開けた。


前には壮大な雲が散らばっていた。雲のない部分はひたすら青く、いうなれば快晴。
さんさんと降り注ぐ陽光はとても暑く、陽光から離れて影となったコンクリートの上で涼しむ。
ヒンヤリとしたコンクリートの壁は、夏の暑さで火照った体を冷ましてくれる。

俺は、いつも立ち入り禁止の学校の屋上でのんびりと横になっていた。

名前を呼ばれる。
期待と戸惑いの気持ちを含ませたような声で、名前を呼ばれる。
こちらは既に飽き飽きとしていると言うのに、飽きもせずに次々と…

「用って何?」

判りきったことを冷えきったまま聞いた。

「あのね…」
呼び出した本人はこちらの気持ちも知らずに、もじもじと語り出す。





吐露したくなる。

あなた達は俺に何を望むのですか。
一緒にいても何も与えてはくれないだろうに。

疲れさせるだけの存在のあなた達は、これ以上何を俺に求める。




ドロドロとしたものはいっそう厚く包んでいく。

「バイバイ。」

話を聞いて去った。
何も思いもせず、思った事といえば今日はこの後どうしようかなって考るくらい。
断ることの罪悪感なんて既に消え失せていたし、
気がつけば思いやる気持ちさえ消えていた。


ただの自己中になっているのを感じている。





けれど、止まらない。

坂を、ブレーキという存在を忘れ果てたまま自転車で駆け降りるのと同じように。
止まらない。



家に帰る。
いつものように鞄を置いて、そのかわりにボードを手に取った。
玄関へと駆けていく。
「ちょっと待ちなさい。」
母さんと遭遇する。珍しく家にいた義父さんも母さんの横にいて心配そうな顔をしていた。


見たくない。

「何処に行くの、今日こそちゃんと言いなさいよ?」


見たくない。


「ハヤト君……。」
母さんは怒っているのが明らかで、義父さんも心配しているのが明らかで。



見たくない。







見たくない見たくない、見たくない。


「母さん達には関係ないだろ!」
その場の勢いのまま吐き出した。
頬を平手で叩かれた。
数秒の間は叩かれた部分がジーンと痺れていたけれど、痛みが何もない。
胸の奥は自分でも既に何を感じているのかわからない。
痛いのか…悲しいのか。

それとも何も感じていないのか。

ただ家でジッとしていられない、見ていたくない。
それだけやっとわかるくらいでスケボーを片手に家を飛び出した。

「ハヤト君!!」

義父さんの呼び止める声を後目に飛び出す。
夜になるにともない姿を変える街に躍り出た。

市の中心部は静まり返って、いつもみたいに怪しげな店のネオンばかりこうごうと輝いている。
知り合い達とすれ違う。
その度に声を掛けられた気がした。
雑音のように通り過ぎていく。
人が動く木に感じる中、スケボーに乗って、地面を蹴り上げて。
少々町中から離れた拓けた場所につく。
オヤジさんに教えて貰ったそこは穴場だった。

わりと広い公園。木々の間に作られたちょうど良い具合にのびる壁に、長めにのびたストリート。
住宅街内であるから昼間は人が多いが、かわりに夜になるとめっきり人が少なくなる。
その場所についた時には、息は切れ切れ。
無理矢理呼吸を整えてまたスケボーを蹴った。

ガタンと音をたてて転がしだし、いつものようにただ夢中に走り出した。

夢中になって、全て汗と共に捨ててしまうために。




ただ走って

走り続けて








転けた。


あれからどれくらい経ったのかわからない。
気がつけば足はガタガタで、信じられないくらい汗だくで軽く膝も擦りむいていた。

それでも気持ちは一向に収まらないまま。
立ち上がって、転げた時に遠く離れてしまったスケボーを取りに行く。
がたがたの足で歩くのはいつもより余計に時間がかかる。
流石にスケボーのある場所まで歩いたら力つきて座り込んだ。
すでに息を整えるのは難しい状態。頭もいつもより回らない。
どうすれば良いのか全然わからない。
いっそ消えたら楽なんじゃないか。

このまま横になっていたら消えられるんじゃないか?

思うがままに四肢を投げ出した。
空をあおぎみて、ゆっくりと瞳を閉じた。




ガサッと近くの植木の草が動く。

風にしては不自然な音。
犬でもいるのか?






………なんでも良いや。

静かに静かに、このまま…




次にやってくる騒音とも呼べる人声を予想も出来ずに、ハヤトは深く深く眠りにつこうとしていた。



「やったー!やっと、やっと出たぜー!!!!!!」

そう犬なんかじゃない。居たのは人で、出てきたのは人だった。
すぐそばで発せられた急な大声にびくりと驚いてそちらに目をやる。

最初に目に飛び込んだのは、月も薄暗い中でも透けるように明るい水色の髪。

「おぉ少年発見、少年発見!早く帰んなきゃ良い人光線打っちゃうぜー!?」


それも変な格好をして変な事を言う。
信じきれなくて倒れたまま聞いた。



「あんた誰。」


















BACK//   //NEXT

---------------
20041005  加筆修正20060629