story12.........





「ヒーロー参上!」




夜の闇に映える水色の髪、耳には幅の広いサングラスをかけて、胸に『サ』と白地に赤で書かれたヘンテコな服を来ていた。
またそいつは昨夜と同じ姿で現れた。
ただ昨夜とは違う所は、今回は銃を持っていなくて手ぶらだと言うこと。

『丸腰お間抜け自称ヒーロー。』

そいつの異名が俺の中で意味もなく1つ増える。

「また来た。」
「当たり前だぜ。ヒーローだもん。」
「邪魔。」

そいつは、丁度いつも練習で滑っているコースの上に突っ立っていた。それも仁王立ちで腰に手を当てている。
このままひいてやっても良いけれど、俺が怪我をするかもしれないし止めておく。
ただいま俺はヒタスラにスケボーの精進中。
あんたの相手をする暇は全くございません。とっととどいて下さい。


スケボーの上に片足を置いたまま、そいつがコース上から避けるのを待った。
丸腰お間抜け自称ヒーローが、足下を見てから俺の方を1度向く。すると気がついたのか焦るようにして横へ動いた。
それを一別確認してから地面を蹴った。スピードを出し始める。
この場にあいつがいようと、いなかろうと気にするな。
このまま今日は無視しよう。


そう思いながらあいつの横を通りぬけようとした瞬間。
「………じゃなくてだなぁ!」

「へ!?」

衝撃がくる。




短く空間を仰いだあと、気がつけば地面に落ちていた。
幸い頭は打たなかったが手を思わず出してしまって、手のひらを多少擦りむいた。
ピリピリとしびれる感覚がして痛い。それ以前に集中的に胸から下にかけて重い。
ちょっと目線を下ろせば、俺をクッションにした奴の水色の明るい髪を生やした後頭部が嫌でも目に入る。
昨日も思ったのだけど、随分と派手な髪色をしてる。日の下でみたら、さらに派手に見えるんじゃないだろうか。
けれど、今はそんなことよりも派手な頭をしたコイツの行動が腹立たしい。

こいつは、横へと避けたと思ったら、避けたそばから身をひるがえしてきた。

気づいた時にはもう遅く、俺があいつに突っ込んいく。そしてぶつかる瞬間は体当たりをされた。
避けようとジャンプしただけなのだろうけれど、馬トビをするみたいに跳ねたところで、こっちはそんな行動を予測もしていないし、しかも当人に向かって動いていたわけだ。動いている人に対して、しかも一人の意志で馬トビをしようなんて、よっぽど運動神経がよくなくれば上手く行くわけがない。
体当たりされたのと違いはないし、よっぽどのバカだ。

「いてて……あぁ悪い!!」


状況が把握出来たのか反射的にどく。
その後に手を差し出してきた。

「あんた馬鹿。」
「バカ!?……は、確かかもしねえけど、あんたじゃなくってサイバー!」
差し出された手に捕まる。
お互いにムッとしながら、引き起こしてもらう。
服をはたくと、パラパラと、ごくわずかに付着した砂が落ちた。
すりむいた手のひらを見ると、小石は幸い入っていない上に、思っていたよりも擦りむいていなかった。
血が軽く滲んでいたから、消毒代わりに軽く舐める。それから本日のお邪魔虫に問いかけた。
「あんた何しに来てんの?俺の邪魔しに?」
「サイバーだって言ってるだろ!俺はヒーローしに来てんの。お前の邪魔しにじゃなくって、お前を含めた多数の更正しにだぜ!!だから、こんな夜中に外出してないで家に帰れ。じゃないと良い人光線じゅ…って昨夜壊れちまったんだっけ。………ともかく、家に帰りなさい!!」
自信満々に言い放つ。



『家に帰りなさい。』



そんな事を胸を張って命令されたのは初めてだ。

へー。ふーん、そう。



「俺が家に帰らなかったら悪い奴?」

「おう!」


間髪いれずに即答だ。
『深夜に町中をふらついているやつは誰であれ悪者であり、こいつにとって更正しなけれいけない対象』
そういう事か。


背中を向けて、先程離れた場所に放り出されたスケボーを拾ってそのまま歩いた。
あいつから離れる。
4、5メートル離れたところでバネが跳ねる音がした。
そのまま振り返らず歩き続ける。
後ろにあいつが付いてくるのを感じならが無視し続けた。
時々車が横の道路を走り抜ける。度々バイクが大きな爆音を起てながら通りすぎた。
車などが通る度にヘッドライトに照らされて無機物なコンクリートばかりが明るくなる。
その中を闇に溶けるように歩いていく。
曲がり角に着く。
T字のその道を右に曲がって、まっすぐ。
次は左に曲がって今度の曲がり角も左に、次は右に行く。

「なぁ、どこに行くんだ?もしかして家に帰るのか!!!?」

あれからずっと俺に後ろを犬みたいに付いて来ていたあいつは、嬉しそうにそう言うと、まして強く跳ねていた。
バネ音が悪化して、間の抜けた響きが夜の静けさの中に響く。

俺は、変わらず無視して振り向くことなく、無言で歩いていた。










「あんたって他の奴も更正するんだよね?」

話かけた時は、町の中心部についた時だった。
人が家路に着いて静かなはずの街路は、集団で固まって多ヶ所にて騒いでいる輩達で騒々しくなっている。バイクにまたがり、笑い声、もしくは奇声をあげる者達。
自己を主張するかのように、もしくは己の存在を紛れ込ますかのような音達が、ひっきりなしに耳に入ってくる。
俺にとって毎度見慣れた光景であり、俺にとってどうでもいい光景。

「ここにいる人たちを好きなように更正でも注意でもしたら?」

誘うように問いかけた。
あの穴場の練習場は、夜に人はあまり拠らない場所だ。
風で木々達の葉が揺れるくらいで、その他は冷淡とした無音の世界。


こよなく今の気持ちと相反していて、合ったところ。
そこには部外者は不快なだけだった。






そいつは、俺の言葉の後に瞳を輝かしていた。
何度となく見たことのある目。
何度となく突き落とした目。


それに、似ていた。
あぁ、やっぱりこいつは嫌いだ。






ピョンピョンとバネの入った靴を弾まさせて、騒音の現況の元へと向かっていく。
「サンキュー。」そう言葉を俺に向けた。
そして、何処からか取り出したのかわからない何かを手渡される。あいつは、それを俺が確認する前よりはやく、すぐさまに町中にかけていった。
豆粒に、あの明るい頭は闇に飲まれて消えていく。



痛い目に会えばいい、酷い目に会えば良いさ。どうなろうと知るものか。
ドロドロとしたものの感覚さえ、すでに混沌としていた。
「またね。」
皮肉を込めて言い放つ。
さようなら、もう会わないけれどね、っと。


独り言のように言い残し、目線を落とした。
先ほどあいつに手渡された何かーーーーバンドエイドを、数秒見る。
すりむいた手のひらで握りしめると、擦り傷が多少痛んだ。
無造作にポケットに突っ込んで、そして何事もなかったと、今来た道を1人で歩き始めた。











小1時間たった。
俺は穴場で独りサンドイッチを食べる。
ボソボソとした薄いパン生地を、何も貼られていないすり傷だらけの両手でつかみ、食感を微妙に思いながら完食する。
横に置かれたビニール袋の中身をあさって、250mlと小さめなパックの飲み物を手に取った。
飲物の封を丁度開けたところで、遠くに人影がみえた。
真夜中の影になりつつ1人。
ゆっくりと大きくたくましい体を揺らしながら、迷わず俺の方へ向かってくる。

遠くからでも誰だか分かった。おやじさんだ。
街灯に照らし出されたおやじさんは無精髭を生やした顔を少々困惑させていて、肩には何かを乗せていた。

近づくにつれ、その肩の荷の正体を解した。
素知らぬ顔で向き合う。

「こんばんは。」

電灯の光が亜互いに届くような距離になってから話しかけた。
「おうこんばんは、元気そうだな。………ところでよハヤト、こいつどうにかしてくれ。半泣きで変な事言って現れるわ、話聞けば聞いたで迷って帰れんわでよ……。話の途中でお前が出てきたもんだからつれてきたもんだが。」
おやじさんの肩の上に乗せられ身動きせずにじっとしていたのは、あいつ。
変な服を着て、おやじさんの肩の上でバネ状の靴を履いた足を、力なくブランとさせているのは、先ほどのあいつ。
おやじさんが喋っている間に、何度か鼻をすする音がしていた。




「そんな人、知りませんよ。」



そう言おうとした。
「そんな人知りもしないし、見たこともないし、あまつや会ったこともないです。なにかの勘違いでしょ」っと。
しかし、おやじさんがそいつを下ろしたと思いきや、そいつは跳ねた。
俺が喋り始めるよりも早く、鼻水を垂らして、反射的にコチラに向かって飛びついてきた。


「ハヤトーーーー!!!」


不意をつかれて、踏ん張るのを忘れた。
勢いよく後方にバランスをくずして後ろに倒れた。
そして、また手をすりむいた。
幸いなのは、開けたばかりの飲み物は手に持たずコンクリートの上に置いておいたので助かったこと。
こぼれなくて良かった。

しかし、わけも判らず抱きつかれ、胸元でぐずぐずと泣かれて嫌な気分だ。

「……離れろよ!」
「はやとぉ……ひくっ。」


きゅ、急に呼び捨てぇ?
俺からは1度も教えてないって。

ちょっと、鼻水を服で拭かないでよ。
その前に俺のところに戻ってくるなよ。
少し考えればわかるだろう?

泣く原因を作った本人にすがりついて、あんたって本格的馬鹿だ。


こいつに言ってやりたい事は山ほどあった。
けれど、そのすがりついてきている姿を見たら呆れてか、何1つ言葉は口に出なかった。
先ほど来たばかりのおやじさんは、いつの間にか姿を消していたし
2度に渡ってすりむいた手の平はヒリヒリとしていたし

ほとほと困りながら静かに耐えていたんだ。


それはイラつきさえ、忘れるほどに。





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20041104  加筆修正20060728