story13.........
真っ白になるほどに。
光が降り注ぎ、まぶしい中に闇を一筋作る。
朝日をさえぎり立ったひとつの影は、徐々に近づくと、ごろんと寝転けている俺の顔をたたいた。
たす、たすとした音がして。たす、たす、という音が響き、回を重ねるうちに
『たす』が『ぺち』になり始める。
それを俺は、はえをおい払うように手を1度ふりぬく。
すると『ぺち』といった叩かれる衝撃が消えて。しばらくすると、何かブツブツとした小さな呟きが聞こえはじめる。ーーー遠ざかっていく。
広がっていた影が消え、っといっては変わりに白くまぶしい光がまぶたの後ろに降り注ぐ。
眩しくて、寝返りをうつ。
避けることに成功したのか、避けた先は何の刺激のない気持ちの良い空間。
その先に。
待ち受けていたのは『バシャン』と音をちらばして降ってきた冷たいもの。
一気に顔の上に降ってきて、驚いて飛び起きた。
何事かと思うと、雨も降っていないのに髪からポタポタと水が垂れ流れる。
白色に近いコンクリートと半分閉じかけた瞳でにらみ合うが、何故か目に入ったのは白から黒く染まったコンクリートだった。
濡れて邪魔な髪を無意識に耳にひっかけ、辺りを見渡す。
辺りのコンクリートは白く、近辺を見てみると
やはり黒かった。
薄明るくなる空と鳴きながら飛ぶ数匹の小鳥が目にはいる。
無意識に場所の確認をする。と、何故こんなところで寝ていたのかとか。
何故空は晴れているのかとか。なのに何故に水を被っているのかとか、疑問に思うが。
取るに足らないことだと悟る。
まずなによりも先に思ったことがあった。
何も変わりない世界全てに安堵し、なによりも酷く嫌悪していた。
そして再び横に。
ゴロンと寝転がる。
コンクリートはゴツゴツとしているし、寝心地はまったく良くないけれど、気ならない。
なによりまだとても眠いから。
「あー!!!せっかく起こしたんだから寝んなよなぁ!!」
意識が完全に沈むのを許さないのか、声が降ってきた。
かと思うと、次の瞬間には肩を捕まれ揺さぶられる。
車で急ブレーキをかけ、次の瞬間にはアクセルを踏み込むのを繰り返させられるみたいに体がゆれる。
揺さぶられる。
「起ーきーろーー。」そんな言葉と共に強く。
流石に寝ていられなくて起きた。
肩をつかんだ手を瞬間的に振り払って。
俺は眉間にしわをよせて、そいつを睨んだ。なのに関わらず、そいつは嬉しそうに笑い始めた。
片手には、塗れたてのバケツ。何がおもしろいのか、肩を軸にして回しだす。
1回転…2回転…3回転っと…。
「俺これから家に帰っから。」
空は白ずんでいて、太陽が上ってまだ間もなさそうな程度。
くしゃみをひとつ。吹き出して、気がついてみると服にまで水が染みていたらしい。
濡れているこの状況を問わずに、今朝は夏の割には冷えている。
天気予報では真夏日であるはずだったはず。これから気温があがるとはいえ、それが当たるかは怪しそうだ。
とはいえ、『起こすためだ』という名目の上で水をかけてきたと思われる当人の行動は、常識はずれにもほどがある。
その当人だが、すたこらと数分前から姿を消している。ぬけぬけと「風邪を引くなよな?」とバケツを振り回しながら言い残してだ。
そんなもんだから、俺ひとりここに残った。
この感覚が妙に懐かしく思えたが、あいにく気のせいだろう。
あいつ誰だっけ……。
ぼけた頭で考えた。
微妙に暖かいながらもヒヤリと冷たい風が通り過ぎる間に。
そうそう、お間抜け自称ヒーローだったけ。かと、思い至る。
またくしゃみを1つ。
上半身はびしょびしょ。服はぐしょぐしょ。
まだ足りなかったらしく再びくしゃみが出た。
明らかに着替えた方がよさそう。
「一度家に、………止めた。」
水でぐしょぐしょの上着を脱いで、水気を極力しぼり取ると、コンクリートの上に広げて敷いた。
太陽は昇り始めたばかりで多少冷えるが、多分すぐ乾くだろと予測をつけて放置する。
そのほうが家に戻るよりかはよっぽど良いように感じたので、己は乾くまでのんびりと待てばいいだけと事だと割り切る。
幸い、長期の休み期間に入っているので時間はいくらでもあった、ので悪い方法でもない。
あいつのことを思い出す。
普通に起こしてくれれば水をかけなくても起きたのに。
どんなであろうとしっかりと目を覚ますだろうに。
腹が立った。
久しぶりに熟睡していたことに。
こんなところで。
あいつの側で。
ありえないほどに意識を手放し、安心して寝ているなんて。
家族以外見せたこともないものを、あいつに見られた。
その事もショックは大きい。
何よりも,
あいつに腹が立ち、己にも腹が立つ。
くたびれていたのだろう。
それでも寝ぼけるほどに深く眠ってしまった自分のことが信じられない。不思議に思う。
答えが出ない。
答えに行き着かない。
すっきりしない。
「……突然泣いてくるからいけないんだ。」
無理やり答えをだして。
わからないから、あいつのせいにした。
もう二度と来ないようしむけて。
それが成されると確信していた。
なのに、予測外に泣いて戻ってきた。行動がわからない。
だから混乱していたんだ。
きっとそうに違いない。
「くしゅ!」
再びくしゃみを1つ。
今度は後に鼻をズズとすすった。
………イヤな予感がする。
ひしひしと背中に感じる寒気というか、悪寒というか。妙にその類いを感じる。
……早く服乾いてくれないかなぁ。
「ヒーロー参上!」
昨夜と変わらぬ第一声をあげて、数時間とたたずにやつはもどってきた。
数時間前の置きみやげの上着はそろそろ着れるんじゃないかというくらいになっているが、それでも大いに遅かったらしい。
「むむむ……なぜに上半身裸。」
「あんたのせいだ。」
ぬけぬけと言い放つ。
頼むから少しは考えて発言してくれ。
「あんたじゃない!サイバー!!………家帰ってねぇの?」
「帰ってどうすんの。」
「着替え取りに行って、ついでに家族におはようございますの朝のあいさつ!それしかねぇぜ!な!」
「……それで水かけたのか。」
「おう!」
底知れなく明るい返事が返ってきて、くったくがない。なさすぎて摘めないほどだ。
昨日のすがり付いて来たアレはなんだ、別人か?そう思ってしまうほど目の前にいるそいつは、姿も態度も違う。
様子もそうだが、一番の理由を上げるとしたら服装だろう。
あんな赤パンツの服装ではなく、今はとてもオカシイとは言えない格好をしている。
言い換えれば、まともな服装をしているってこと。
髪の色は変わらず、あの幅の広いサングラスもしているが、だまっていたら多分あいつだとは分からなかった。
「ぜってー、あれで家に帰ると思ったのになぁ。」
「家出人が服が濡れたくらいで帰らないって。」
「帰るかもしんないじゃん。」
「絶対帰らない。現に俺帰ってないし。」
「ちぇーー、惜しいぜ。」
いや惜しいもなにもないよ。ってか、なに、この和やかな会話。
おかしなことに気がつく。
ペースがつられている気がする。
こんなことになるなんて思ってもみなかった。
ひとまず落ち着いて、いつもの俺のペースに。
…………変だ。
さらにおかしな事に。
いつもの俺のペースが思い出せない。
あ、あれ?
ここを、こう返せば良いとか、ここは黙るべきだとかそのタイミングがはっきりしない。
とりあえず……
どうすれは良い…?
冷や汗が出た。漠然とした感覚の中、頭を抱えた。かまわずあいつは、
初めて会ったときのように、どうしたのかと止めどなく訪ねてくるけど。
その問いに
笑いかえして軽く答えてやれば良いのか。
始終無視をすれば良いのか。
それとも冷たくあしらえば良いのか。
答えをまとめようとしていた。なのに、目の前のそいつが邪魔する。
俺の調子を狂わしていく。
静かにしてくれ、
頼むから。
ああ、もう…。
頼むから…。
「語尾に疑問符ばっかりつけた言葉出す前に自分で考えろよ!
少しは黙るって事が出来ないのか!?犬みたいにキャンキャンキャンキャン、うるさいうるさいうるさい!!人が考えてんだから静かにしろ!」
恥ずかしいくらい大声をあげた。
こんな大声で怒鳴ったのはこれで3回目だ。
1回目は母さんに。2回目はこいつに。
効果がなかったらどうしたものかと。
けれど、あいつは静かになって、きょとんとした顔で俺を見つめてきている。
と、思ったら噛みしめるような笑顔になった。
「何がおかしいんだよ!!」
「へ!?あ、いや、ソーリー!!……ごめんなさい。すげー嬉しかったもんだからさ。」
人に怒鳴られて嬉しというこいつに対して、
他人にあり得ないことをしている自分に対して衝撃的だった。
その後は似たようなことが続いた。
頭に来ると、その度にあいつが笑う。頭に来た。それでも会話が続く。
キリのないエンドレスリピートなやりとり。
時々笑った気がする。
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20041231 加筆修正20060927