story14........
目の前のこと意外考えられなくなるほど、真っ白に。
あいつのリズムに狂わされて、
落とした仮面と言う名の武器を
つけるのを忘れて。存在すら忘れて。
ただ、むき出しのまま
……どうかしてる。
走る
走る
走りはじめた。
ろくに景色を見ず、誰とすれ違ったかさえ覚えていない。
ただ全てがどうでも良いものに感じて、特に興味もなかった。
実際に、興味をもったところで、自分に関わってくるものは殆どない。だから、気にしたところで何も変化はないだろうと思う。
そう無意識にいた中で、俺は体を預けていたスケボーを止めた。
そして、ある人物の前にたった。
「また居るし…。」
言葉の中には、まだ前ほどの初期の感情を含んではいなかった。
近くにある電灯と月明かりが静かに姿を照らしだすのは、明るい水色の髪に幅のでかいサングラス。それに赤パンツの奇妙な服に身を包んだ姿。
もう見慣れてしまって違和感がない。
この姿を見たのは何度目になるだろう?
すでに7回は見ている気がする。
「あんたも飽きないね。」
「あんたじゃねえし、サイバー。いい加減覚えろよなぁ。ちなみにお前を改心させるまで飽きずに来るぜ!!Do you understand?」
「はいはい。わかったわかった。」
「って、ことでそろそろ家に帰らん?」
首をかるく傾げて、真っ直ぐに俺を見た。
女性がこんなしぐさをしたなら、可愛いのだろう。そんなしぐさだった。
まぁ、こいつに対しては性別といった侮蔑は必要なく、憎らしいとしか感じない。
真面目に答える気を失せさせる。
「実は………家ないんだよね。」
さらりと言ってみた。
ぽけっとしたあいつの顔が、数秒してから理解したらしく急激に気の毒そうな顔になった。
その変化が面白いとは思う。
百面相をして、次になんと言おうかと考えている。それが非常にとれた。
こんな単純な嘘に騙されるあんたに気の毒になって「嘘。」とすぐにでも言ってしまっても良いのだが。
何を言うのか気になってしまったので止めた。
何を言うのだろう?
あいにく俺には、サングラスの向こう暗くて見えないのだけれど。
あいつは、サングラスの奥で、目の中で瞳をゆったり一周泳がすと、揺らいだ瞳をさせたままこっちを見て、あいつは言った。
「えーと………とりあえず御愁傷様です。」
「………誰も死んでないよ。」
ペコリとお辞儀をして「ご愁傷様です。」
どこからそうなるのだか解せない。
変わらずバカだと思った。
「あんたって本当単純な。嘘。家がないなんて全くのウソだって。」
「…………まじかよ!?うそつきは針千本なんだぜ!ったくよー―、家がないって……こえー。
家族ないなんて俺は嫌だぜ、寂しいじゃん。うん無理無理。………でも、ハヤトにちゃんと家が本当にあって良かったぜ!!
んなわけで、さっさと家帰れよ。心配してんぞ?」
今度はすねた。悲しそうにする。
次には笑顔。
くるくると
どこまでも変わる表情。
飽きはしないが
見ているうちに噴き上がる気持ち。
俺にない何か。
そこに違和感が募る。
同時に連呼され続ける「家」という言葉に。
連想される、母さんと義父さんの姿。
徐々に腹立ち始める。
どこにあるのか自分でさえわからない俺の導火線に毎回あいつは上手く火をつけていく。
関心してしまうくらいにだ。
俺が切れる。
あいつが耐えきれず泣く。
負け犬の遠吠えを残して、あいつが去る。
もう現れないだろうと思っていると、暢気に再び次の夜に現れる。
それが、ここのところの週間。
それが今の当たり前。
けれど今日はいつもと違った。
いや
何も変わらなかったのかも知れない。
あいつは今日も泣きながら去ったのだし。
毎回の罵倒もしてきていた。
けれど……いつもと確かに違っていた。
それは、俺をどこか違って映す瞳。
泣きながら、それでも変わらなかったあいつが、初めて俺を嫌悪していた。
それにーー……
「よっ、ハヤト!」
こいつと話していると、偶然通りかかった知人が声をかけてくることが度々あった。
多い日には二桁はいく。
皆、俺にとって無意識である存在でしかない。
笑顔で多少の話の相手をしていると。
あいてが話すことがなくなり去っていく。
ちらちらと、もの珍しそうに俺のとなりにいるこいつを見ながらだ。
離れていく時もこいつを見ながら去っていく。
当の本当は無言でそわそわと、近づいてきた知人と俺の会話が終わるのを毎回俺のそばで待っていた。
今日もついさきほど1人やってきた。
やはり、こいつをちらちらと見ながら去っていった。
これも一部で『ハヤトのそばにおかしな奴がいる』と噂になっているせいらしい。
原因はおやじさん周辺の人たちだろう。あの夜の出来事のせいだ。
横目で、『へなちょこ仮ヒーロー』を見た。
こいつが来てからまともにスケボーの練習が出来た試しがない。
笑顔で、こいつを見物にやって来たやつがさっさと去っていくのを待っていた。
イライラと、腹の中がふつふつと、ドロドロとしたもねが煮立ってくる。
そんな時、のんきなこいつがポツリと一言。
「……ハヤトは友達沢山居て良いな。」
語りかけるわけでもなく、去っていく人影を見つめながら独り言のように呟いた。
野次馬な連中が友達だと言えるのか…
「欲しかったらあげるよ。」
ポロリと自然に出た。
あげるから何処かに
そろそろ一人にさせてほしい。
お願いだから何も考えたくないんだ……
イライラとした気持ちと、願いににも似た気持ちが混ざり合う。
次の瞬間あいつは何故か泣きそうな顔をして俺を見てきていた。
「………今、なんて言った?」
「『欲しかったらあげるよ。』って言ったの。」
再び、今度は質問を変えて解いてきた。どこか声を震わせながら。
『信じらんない』。そう無言で言ってきていた。
「いまの奴って大切な友達の1人……じゃねえの?」
あれ達は有害。奥底に黒い物体を残して去っていく。
俺にとって無関心でしかない、より無にひとしい存在でしかない。
どこに必要性があるーー?
大切な友達?あんな連中なんて
いらない。
どこかで弾けた
気がつかない
「違う。大切な?……あんな人たちといるより、よっぽど1人の方が良い。」
すでに厚く被い尽くされていて、知る由もなかった。
心の底からドロドロとしたものが勢いよく噴き出し始める。
それに気がつかないまま、どこまでも。
止め金はない。
「……1人が良いって、なんだよそれ!」
「そのままの意味。だいたい他人なんて人を虚像で作り上げて本質を見抜こうなんてしてないじゃないか。」
どこまでも噴き出していく。
「上辺だけに安心して頼ってきて、本質に気づきもしない。ただ疲れさせるだけの存在になんの意味がある?…疲れるだけなら、そんなやつらいらないじゃないか。
それに、お前が連呼しまくる家族だって親だってそうだ。愛し、結婚して一緒に暮らしています?家族だって他人じゃないか。……不確かなもので何が信頼出来るんだよ!?」
我にかえる。
……どこまで吐露してしまった?
ずっと泣きそうな顔をして聞いていた。言い終わるとあいつはいつものように泣き出した。
一回言い返してこようとして躊躇して、口元を震わした。
吹き出るようにして出てくる涙を拭く。
悲しそうに、それでいて怒った声で、ひたすら泣きながら
「………………ばか!!あほ!!好いてくれて、……よ、よってきて、そばにいてくれる人が居んのにそんな事言って………他人が…他人がどんなに大切か…っ。」
全てを吐き出して真っ白だった。
あいつの言葉は心の防壁もなく届いた。
やっぱりこいつは嫌いだ。
どこまでも土足で奥へくる。
「っバカ!!バカバカバカ!!お前俺より頭良いだろうけど、バカ!!お前なんか嫌いだ!!………お、お前なんて大っ嫌いだぁぁぁぁ!」
今日はいつもと違った。
いや何も変わらなかったのかも知れない。
あいつは今日も泣きながら去った。
けれど……いつもと確かに違った。
それは、変わらなかったあいつが「嫌いだ。」と、俺をどこか違って映す瞳で泣き叫んだ言葉。
その言葉は、初めて俺を嫌悪していた。
それにーーー
次の夜に、あいつは現れなかった。
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20050105 加筆修正20060927