story16.........
止めた思い。
どこまでも、どこまでも際限がなく。
きっと まだ 間に合うから
街灯の灯った道を。
脇にはスケートボードをはさんで、いままで通り過ぎていった道を歩いていく。
人がぽつりと少なく乗った朝方のバスが横を通り過ぎ、今まで気づきもしなかった青色の屋根の家では犬がほえていた。
今まで何度も行き来した道。
いまもどります。
町中は静まりかえり、天にはうすく伸びた月が淡く光る。普段と変わらない真夜中。
いつも一人ポツンとたった。
真夜中の中、いつもと違うのは、嫌いだったはずのこいつが隣にいて
閉じ込めたはずの涙が頬を伝う。
1度出てしまうと、何処までもなく意思と関係なく、それは出続けた。
あんなにも五月蝿かったあいつは、何も言わずはじっとしていたし。
それがひどく優しいものに感じて、さらに止まらなくなっていく。
しばらくこのままで
それを、願うよ。
やっと落ち着いたときには、座り込んでいて、あいつは眠りこけていた。
いつの間に膝をついたんだろう?
すぐ横から規則正しい寝息が耳に入ってくる。
心地よい疲労感を持ちながら、やっと離れて立ち上がった。
涙が乾きはじめた頬を拭く。
お腹が膨れるくらいに息をすって、はいた。最後の片鱗を捨てる。
そして気持ちよさそうに寝こけている奴を見た。
俺は、さっきのこいつみたいに目が赤いのだろうか。
もしかしたら、こいつ以上に赤いのかもしれない。
「情けないなぁ……。」
顔を隠すようにして前髪をくしゃりと掴んだ。
気恥ずかしい気持ちが胸を占める。
けれど悪気はしない。むしろ気分がいい気がした。
それは言ってしまえば、こいつのおかげ。
わからない。
勝負だったのかさえ分からない。
勝負の行方はハッキリとしないまま。それでも、多分俺はこいつに負けたんだ。
その代償は、今も全てが消えたとは言いがたいドロドロとした気持ち。
ヘドロとしたものは水を失ってパラパラと剥がれている。カラカラとして、リセットされていく。
仕方ないから、負けた時の条件を飲んであげよう。そう思った。
1歩.....2歩...と足を進めて。
覚悟を決めた。
会ったときにはまた、どう感じるかは分からないけれど……
きっと今なら大丈夫。
完璧に歩き始めてしまう前に、あいつを見た。
寝こけたあいつに底の底から溢れるものを。
……自然と微笑んでいた
「じゃあね、サイバー。」
取り戻したのだから、もう思い出す必要はい。
素直なものを、母さんと義父さんに伝えに行こう。
きっと きっと、大丈夫だから
幾日振りに家の前に立つ。
覚悟を決めていたが、それでもゆっくりとドアの取ってに手をかけて引いた。
すると容易にドアは開いた。使わずじまいな鍵を片手に持っていた。
多少の驚き。
靴を脱いで、ボードを玄関に立てかけてリビングに向かう。
久しぶりの家は、飛び出す前と変わらぬ雰囲気のまま。
気持ちは焦いでいく。それでも歩いて、玄関とリビングの間にあるドアを勢いよく開けた。
バンッと音を立ててドアが壁に当たる。と、同時にソファーで布団に包まって寝ている義父さんの姿が眼に入った。
割と背の高い義父さんには、見ていて窮屈そう。
義父さんがもぞっと動いた。
そして眠たそうな目で、こちらを見る。
次の瞬間には目を見開いて、勢いよく立ち上がろうとして……ソファーに足を引っかかりこけた。
そんな義父の姿に呆れた。
少しながら緊張していたんだ。
前みたいに接しられるか、前みたいに接して貰えるかとか、やっぱり怒られるんだろうかとか。
立ち上がった後には、やっぱり叩かれた。
頬を思いっきり平手で。
それから抱きしめられた。
たたかれた頬はジーンとしびれていたし、今度は痛切なほどに痛いと感じられる。
無言で抱きしめてくる義父さんの痛いほどの存在感。
「ごめんなさい。」
この人に言ってしまおう。
今までずっと思っていた、それでも隠してきた気持ちを。
俺はーーー
「ずっと、あなたを父と思えなかったんです。」
絆が無いとも言える言葉を。
区別がつかない、他人でありながら身内のこの人に。
接し方がわからないから、誤魔化して、ずっと逃げ続けていた。
今日はハッキリさせてしまおう。素直になるよ。俺は、あなたを父とは思えません。
言ってしまった後も義父さんは離さないで、俺を抱きしめたまま無言でいた。
計算外な事ばかりをしていて、どう動けば良いのか。
しばらくして、義父さんは言って来た。
体を離して、優しい、今までのような瞳で見つめられる。
ふわりとしたもの言いで、「知っていたよ。」っと。
発せられた言葉よりも響きの優しさに戸惑った。
「知っていたよ。ハヤト君が僕をどう思おうと構わない、父さんだと思えなくても他人だと思おうと……けど、君は僕の子供であることには変わらないから、心配はさせてね?」
「……こんなでも良いんですか?」
「うん。遅れちゃったけど、おかえり。」
答えは出ないまま。
優しさばかりが降り注ぐ。
これで良いのか、このままで良いのか……
迷路に迷い込む。
入り口に足をかけかけ。入り込む前に、あいつの言葉を思い出した。
これでも良いのかもしてない。
確かに、義父はそれでも良いと肯定してくれた。
あやふやな気持ちで答えを求めなくとも、自然と答えが溢れてくるまで……
この優しさに甘えて、待てば良いんだ。
「ただいま。」
遅い返事を返して、初めて抱きついた。
暖かい、そこしれない暖かさ。
またこぼれそうになったものを抑えた。
それから義父さんは母さんを呼びに行く。
階段を登り、扉が閉まる音がして数分。
目を擦りながら不機嫌な顔をした母さんが戻ってきた。
義父さんと一緒に。
不思議と何年も続いていたものは湧き上がらない。
おだやかに二人の姿を見守って、怒られるのを覚悟する。
母さんと目が合う。
衝撃と罵声を予測した。
案の定に母は綺麗な顔を怖くさせてズカズカと近づいて来る。と、目の前で顔をゆがませて急激に泣き始めた。
変にバツが悪くて、殴られた方がマシに感じた。
「あんたが今度消えたら死んでやる……。」
そして恐ろしいセリフをはいて、俺や義父さんを凍らせる。
そのまま泣き続け、義父さんはワテワテと困っていた。
その姿に苦笑してしまう。
「……義父さん達はどうするのさ。」
「一家心中。…家族をばらばらにした罪の意識を背負え、呪ってやる。」
「もうしません。」
「わかったんだったら宜しい。」
それ以上は何も言わずに頭を撫でられた。
もう既に母さんは笑っていた。心底嬉しそうに。
見上げてみると困っていた義父さんもそのまま笑っていた。
二人とも安堵の色を浮かべ一緒に笑う。
つられて笑顔になった。
その後、いつものように寝坊して来た姉さんに抱きつかれた。
「心配してたのよ、あのくそマユゲに色々言われて……あぁもう良かったぁ。」
と、意味深な言葉を残す。あのアルファベット3文字の人と何かあったのかな。
とりあえず謝った。
ミサキ姉さんも変わらない。
気抜けしてしまうほど何も無かったのかのような空間。
変わらず接して来てくれる家族。
こんなもんなんだ。
あいつの行ったように『それで良い』まま過ぎていく。
変わらなさ過ぎて、今までの自分が馬鹿らしくって苦笑する。
苦手であったはずの団らんがとても楽しく感じた。
時間があっという間に過ぎていく。
気が付けば、既に空は暗く、床につくような時間だった。
時計を確認した。
そろそろ良い時間かな。
「ちょっと出かけてくる。」
「何処へ行くの?……ちゃんと帰ってくるわよね?約束したし。」
母さん、あれは約束じゃなくて脅しだよ。
内心そう思いながら玄関へ続くリビングのドアに手かけた。
「俺のために、泣いてくれたやつのところ。」
いつもの様にボードを片手に「明日には帰るから。」と言い残して、家を出た。
今度は逃げるためにではなく、会いに。
願いがあります。
言わせて下さい。
あいつにお礼の言葉を、一言「ありがとう。」と
今までと180度違う気持ちで町を駆け抜ける。
風より速く、空気よりも軽く。
街のネオンが星のように輝く。声をかけて来た知人にも明るく挨拶をした。
あの場所に行きついて、初めてワクワクとしながら待った。
またあいつは「ヒーロー参上。」と言ってやってくるのだろうか。
それともまた予想不可能な事をするのだろうか。
信じられないほど楽しみに。
願いがあります。
言わせてください。
あいつにお礼が言いたい。
ただそれだけ。
叶え。
叶え。
あいつは
それ以来現れなかった。
望むことは先回りされるかのように、ことごとく消されていく。
「何で、………来ないんだよ。」
願いは願いは、叶わぬまま。
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20050116 加筆修正20061027