story17.........



願いがあります。






晴れ渡った快晴の中、白い箱の様な学びやに押し込められ。
気だるそうに似た服装を身につけた彼らは授業を受ける。
忙しそうに机と向き合っている人もいれば、後ろを向いて会話を楽しむ人もいたり。
でも大半は寝ているやつがほとんど。
「はい。そろそろ答えあわせしていいかな? じゃあ(1)は……。」
その中に混じって、俺は少し開かれた端でカーテンを揺らしている窓の外を眺めていた。

真っ青とした中にぽっかり白いものの浮かんだ空を眺める。
大きなかたまりであった雲が小さく別れ始めながら南から北へと鈍速で流れて行く。
その空に思うのは、あいつの事。
最後に姿を見てからもう1ヶ月は経つ。

何処へ行ってしまったのだろう。何をしているのだろう。
このところ、そんなことばかり考えている。

変わらず窓の外を眺めながら、小さな欠伸を数回出した。
ふいに「(6)はハヤト。」と当てられた。

教科書も出していなかったものだから、何処を勧めているのかわからない。
けれど、黒板を見てみれば、チョークで問題が書かれていた。
数秒考えて、答えとおぼしきものを言う。

「正解。」と言われて、次の問題へと移っていく。

また窓の外を眺めるのに戻る。
そして再び、今度は長い欠伸をした。




何も変化のない
つまらない日々。






げた箱に、つい先ほどまで履いていた上履きを納めると校舎から出た。時間は5時近く、いつもより遅くもなく早くもないといった時間だった。
学校から出る途中に陸上部が目に止まる。
一直線上に4、5人の生徒が横に並んで
少し離れた脇でピストルににたものを持ち、片腕を高々と天に上げる先生が見えた。

破裂音と共に並んでいた生徒が弾けるようにいっせいに走り出す。
久しぶりにその光景を眺めていた。
1組目が走って、………2,3,4と続々と走っていくのをのんびりと傍観していた。


けれど、先輩のような走りをする人はいない。







ふいに陸上部の先生と目が合う。
ずっとこちらを向いているから、こちらもあちらを向いていると目があって、嫌な予感が走った。
先生はニヤリと笑う。
近くにいた1人の生徒を呼び寄せて、何か耳打ちをしてチラチラとこちらを見てきている。

「……もう終わりみたいだし。」

嫌な予感が的中してそれが起こる前に、背を向けて帰ろう。
予想される光景を思い出して身震いをする。
先輩の二の舞になるのはごめんだ。



すると、誰かが号令のように叫ぶ声がした。
背を向け駆け出すまえに、背後から一気に走り寄せてくる音が聞こえてきた。
思うには、バッファローの大移動だかゲルマンの大移動だか、そんなもの。
後ろを振り返ったら終わりだと、そう自分に言って校門の外へ向けて走り出した。

背中を何かがかすめている。走った。逃げた。
校門を目前として、襟ふちを誰かにつかまれ。
一瞬首が閉まり、軽くむせた。

上を見上げてみれば、斜め上に先生の非常に嬉々としている顔が視界に入った。再び目線が合う。

「帰りますから。」
「走ってけ、な。」
「嫌です。」
「見てたよ、な?」
「はい、でも走りませんから。」

「おーい。皆、ハヤトも走ってくってー。」

会話にならない会話の後。
囲まれるようにしていた部員に嬉々とする声が広がる。
だから……俺は走らないって……。
先生と今度は意図的に目を合わせ、笑顔を作って、『帰る』と無言で訴えてみる。
そうしたら、先生はー

「さっき走りそうな顔してみてたぞ。」

そう嬉々とした顔のまま言って、面をくらった。

苦笑してしまう。

引きずられるように校庭まで連れて行かれ、観念して持っていた荷物を校庭の角の方に置く。無造作に引かれたスタート地点の白線の前に立った。
妙に湧き上がる久しぶりの緊張感。
ボードで走るのとはまた違う。
懐かしい感じ。
「転ぶなよ?」
「転んだら先生に責任とってもらいます。」
「姫様だっこしてほしい?」
「非常にそれは嫌です。」
「だろ?」
他愛のない会話をして、靴ひもを結びなおす。
片ひざを地面に着き、前かがみになる。
先生の合図が開始して、かかとをあげ、そして指先で体重を支えた。

懐かしい懐かしい緊張感。
けれど、前とは違うこの気持ち。


天高く音がして、地面をけりだした。

ただ走る。
目の前にあるゴールを目指して。
迷いも無くひたすら一直線に全速疾走するだけ。

もう1つの白線は目の前。
あと40M……20……10。

一瞬の間、何もかも忘れてた。
ただ心の中にあるのはゴールする事だけになる。



一足ごとの満足感。幸福感。一瞬の歓喜。



そして真っ白になる。





次に浮かんで来たのはあいつの顔。

何故だろう。
とても早く帰らなきゃいけない気がした。




「先生、やっぱり帰ります!」





ゴールへ行きついたときには既に叫んでいた。
駆け抜けながら置いてあった鞄を手にとって、まぬけ顔の先生の返事を待たずに走り去る。


待ち望む気持ちを胸に、家へ走り去った。









あいつは来ない。

わかってる。

きっと今日も来ないのだろう?
寝不足ばかりが溜まっているよ。

けれど決めたから。





家へたどり着くと、家の中では電話が鳴り響いていた。
それを気にも止めずに部屋へとまっすぐにかけ登る。鞄を置き、バッと制服を脱ぎ捨て、私服をタンスから引き出した。すでに用意されているポーチを鷲掴みにして、服を着ながら階段を降りていく。
と、珍しくこの時間に母さんがいた。

母さんは眠たそうな顔をしながらこちらへと歩いてくる。

「何だ帰ってたの?」
「ついさっきね。」

鳥の巣に少し近づいた髪を、さらにくしゃくしゃにさせながら歩いて来て、母さんが俺に気がついたのは、お辞儀をしたらぶつかってしまうほどの距離だった。
仕事用のシャツをシワだらけにさせたまま着ている。

「それなら先に言ってよねぇー。ただいまとか……今帰ったよとか、さっきリュータ君から電話があったわよ。」

母さんは形の良い口を大きく丸く開けてあくびをした。
それから「お帰りなさい。」と肩に手を乗せてから短く抱きしめられた。
俺の横を通ると2階へと登っていく。


「いつ!!?」
「ついさっき。」

階段を登って行く途中に母さんは誤ってスリッパが脱げて一歩下へ下がる。
スリッパを履いてから、つま先を床についてしっかりと履いている。
そして、また2階へと登って行く。
登っていくのを眺めていると、1番上へとたどり着いて姿が見えなくなったら、ひょっこりと母さんは顔だけをこちらに出してきた。

「明日!中学の方に行くから、門のところで待ってってくれって。今日も行くんでしょ?気をつけてね。」


了解してボードを片手に家を出た。
道沿いに出たら、コンクリートの道の上にボードを寝かし乗って、地面を蹴りだした。





先輩が明日やってくる。


卒業以来だ。
変わっていないだろうか、どうだろう?
結局会いに行った時も会えなかったし。



………。

おせっかいな奴からもらった携帯番号は制服のポケットに入れたまま忘れていたことに今さら思い出した。

番号は覚えてる。
あとで、電話してみようかな。。


先輩で思い出されるのは、風を着るように走っていく姿。


あの姿が見たい。
純粋に、とてもそう思う。



蹴りだして、蹴りだして、スピードを上げていく。
どこの誰かもわからない、あいつに会える可能性のあるところへ。
今日もまた微塵にない希望に込めて。熱を上げていく。





願いがあります。
もう すでに 切望しています。






あいつに………会わせて下さい。







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20050129  加筆修正20061028